弁護士が解説!会社経営者の相続問題~5つのポイント

みなさん、こんにちは! 蒼生(そうせい)法律事務所、代表弁護士の平野 潤(ひらの じゅん)です。

いつもブログをお読みいただき、ありがとうございます。

突然ですが、「会社の社長」が亡くなられたら、どうなると思いますか?

「家族が亡くなった」という悲しみと同時に、「会社」という非常に大きく、複雑な問題が相続人の方々に降りかかってきます。

個人の財産(ご自宅や預貯金など)の相続とは全く異なり、会社経営者の相続には、会社の経営権や従業員の生活、取引先との信用問題まで関わってきます。

「ウチはまだまだ先の話」と思っている方も、「まさに今、直面している」という方も、経営者の相続は「知らなかった」では済まされない、重大な落とし穴がたくさんあります。

今回は、会社経営者の相続について、特に重要な「5つのポイント」を、初心者の方にも分かりやすく解説していきます。


ポイント1:株式の相続と「経営権」の問題

会社経営者がお亡くなりになった場合、最も重要な財産の一つが「株式」です。

株式とは?

株式というと、上場企業の株をイメージするかもしれませんが、中小企業の多く(株式会社)も株式を発行しています。
この株式は、単なる「紙切れ」や「財産」ではなく、「会社の所有権」そのものです。

分かりやすく言うと、「会社の重要なことを決める権利(議決権)」が株式には付いています。
この権利を使って、株主は「株主総会」で取締役を選んだり、会社の大きな方針を決定したりします。この「会社をコントロールする力」を経営権と呼びます。

相続で何が起こるか?

経営者(被相続人)が亡くなると、この株式は「相続人全員の共有財産」となります。

例えば、社長Aさんが亡くなり、相続人が妻B(会社経営に関与なし)、長男C(後継者)、長女D(会社経営には無関心)の3人だったとします。

Aさんが持っていた株式(仮に100%)は、法律で決まった割合(法定相続分)に基づき、妻Bが1/2、長男Cが1/4、長女Dが1/4の権利を「一旦、共有」します。

よくある失敗:経営権の分散

ここで「遺産分割協議」(相続人全員での話し合い)がスムーズに進み、「株式はすべて後継者の長男Cに」と決まれば良いのですが、もし妻Bさんや長女Dさんが「私も法定相続分どおり、株式が欲しい」と主張したらどうなるでしょう?

長男Cさんは、過半数の株式を持てず、会社の重要な決定ができなくなる(=経営権を失う)かもしれません。最悪の場合、会社経営に関心のなかった妻Bさんや長女Dさんの意向次第で、会社が立ち行かなくなるリスクさえあります。

遺留分という落とし穴

「それなら、社長が元気なうちに『全株式を長男Cに相続させる』という遺言書を書けば安心だ」…そう思うかもしれません。

しかし、ここにも落とし穴があります。それが「遺留分(いりゅうぶん)」です。

遺留分とは、簡単に言えば「特定の相続人(配偶者や子など)に法律上最低限保障されている、相続財産の取り分」のことです。

たとえ遺言書で「全株式を長男Cに」と書いても、長女Dさんは「私の遺留分が侵害された」として、長男Cさんに対し、侵害された分に相当する「お金」を請求する権利があります(これを「遺留分侵害額請求」と呼びます)。

もし株式の評価額が非常に高額(例えば1億円)だった場合、長男Cさんは多額の現金を妻Bさん(この例だと1/4の2500万円)や長女Dさん(この例だと1/8の1250万円)に支払わなければなりません。そのお金が用意できず、結局、会社のお金に手をつけてしまったり、会社の株式を手放さざるを得なくなったりするケースもあります。

出典

(出典:民法(相続法)改正 遺留分制度に関する見直し(法務省), https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00222.html

ポイント2:事業用財産(不動産・役員貸付)の相続

社長個人の財産の中には、会社経営と密接不可分なものが多く含まれます。

事業用の不動産

会社の「本社ビル」や「工場」の土地・建物。これらが会社の所有(法人名義)であれば良いのですが、中小企業では、社長個人の名義になっていることが少なくありません。

これも株式と同様、相続財産です。

もし遺産分割の結果、後継者ではない相続人(例えば長女Dさん)が工場の土地を相続したらどうなるでしょう。 長女Dさんが「後継者のCさん、来月から地代を大幅に上げます。払えないなら出ていってください」と主張するかもしれません。これでは事業の継続が困難になります。

役員貸付金

これは見落としがちなポイントです。「役員貸付金」とは、社長が会社にお金を貸している状態を指します。会社の資金繰りが苦しい時に、社長が個人のお金で補填する、というケースは、中小企業では少なくありません。

社長の生前には返済を求められることがなかったとしても、法律上は、「会社に対する債権(お金を返してもらう権利)」であり、これも立派な相続財産です。

これが相続されると、相続人(例えば妻Bさん)は、会社に対して「亡くなった夫が貸していたお金を返してください」と請求する権利を持ちます。 会社の経営状態が厳しいのに、先代社長の相続人から多額の返済を求められ、後継者が板挟みになってしまうのです。

(逆に、会社が社長にお金を貸している「役員借入金」の場合は、相続人が「会社への借金」を相続することになります。)

ポイント3:「会社役員の地位」も相続される、という勘違い

「父が代表取締役だったので、息子の私も自動的に代表取締役になる」

これは完全な間違いです。

地位は相続できない

「代表取締役」や「取締役」「監査役」といった会社の「役員」としての地位は、相続の対象になりません。

これらは、会社とご本人の間の「委任契約」に基づくもので、その人一代限りのもの(法律用語で「一身専属的」と言います)です。そのため、社長が亡くなると、その委任契約は自動的に終了します。

新しい役員の選任が必要

社長が亡くなったら、会社は速やかに「株主総会」を開き、新しい取締役を選任し、さらに「取締役会(または株主総会)」で新しい代表取締役を選任する必要があります。

ここでポイント1の「株式の分散」が問題になります。 株式が分散してしまい、後継者が経営権を握れていないと、そもそも株主総会で自分を「取締役」に選任することすらできなくなる危険があります。

社長が亡くなったのに、次の代表取締役が選ばれない…そんな「経営の空白期間」が生まれれば、銀行取引や重要な契約がストップし、会社の信用は一気に失墜してしまいます。

ポイント4:会社の債務と「連帯保証」の罠

遺産相続では、プラスの財産だけでなく、マイナスの財産(借金)も相続されます。 特に経営者の相続人が注意すべきは「連帯保証」です。

連帯保証人としての地位

中小企業が銀行から融資(借入)を受ける際、ほぼ100%、社長個人が会社の「連帯保証人」になっています。会社の取引上の債務の「連帯保証人」になっているケースも少なくありません。

連帯保証人とは、「もし会社が借金を返せなくなったら、また、取引上の債務を支払えなくなったら、代わりに私が全額支払います」という非常に重い責任を負う人のことです。

この「連帯保証人としての地位」は、マイナスの財産として相続人に引き継がれます。

ある日突然、家族が連帯保証人に

会社経営に一切関わっていなかった妻や子供たちが、ある日突然、会社の数千万円、数億円という借金の連帯保証人になってしまうのです。

もし会社が順調ならまだしも、経営が傾いた場合、銀行は相続人たちの個人財産(自宅など)を差し押さえることさえ可能になります。

相続放棄という選択肢

あまりに借金(保証債務)が多い場合、相続人は「相続放棄」を検討する必要があります。

相続放棄とは、家庭裁判所に申し立てることで、「プラスの財産(株式や不動産)も一切いらない代わりに、マイナスの財産(借金や連帯保証)も一切引き継がない」という制度です。

ただし、相続放棄をすると、後継者も株式を引き継げなくなるため、会社は事実上、廃業せざるを得なくなる可能性が高くなります。これは非常に難しい判断です。

ポイント5:弁護士と考える「生前対策」の重要性

ここまで読んで、「経営者の相続は、なんとなくでは絶対にダメだ」とお分かりいただけたかと思います。

これらの問題の多くは、社長が元気なうちに「生前対策」を行うことで回避・軽減できます。

1.遺言書の作成

最も基本的かつ強力な対策が「遺言書」です。 「株式と事業用不動産は、後継者の長男Cに相続させる」と明確に指定しておくことで、遺産分割協議での混乱を防ぎます。

ただし、ポイント1で述べた「遺留分」への配慮が不可欠です。
他の相続人(妻Bや長女D)の遺留分を侵害しないよう、「妻Bには預貯金と自宅を」「長女Dには生命保険金を」といった、全体のバランスを考えた設計が重要です。

2.種類株式の活用

これは少し専門的ですが、会社のルール(定款)を変更し、特別な株式を発行する方法です。

例えば、「議決権(経営に参加する権利)はないが、配当はもらえる株式」(議決権制限株式)を作り、それを後継者以外の相続人に渡す、といった設計が可能です。
これにより、経営権は後継者に集中させつつ、他の相続人にも財産的価値を分配することができます。

3.専門家への相談

経営者の相続は、民法(相続)だけでなく、会社法、税法が複雑に絡み合います。
国も「事業承継」を後押しする様々な制度(事業承継ガイドラインの策定や、事業承継税制など)を用意しています。

出典

(出典:事業承継ガイドライン(中小企業庁), https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/shoukei_guideline.pdf

弁護士に依頼するメリットと蒼生法律事務所の想い

「まだ元気だから大丈夫」「ウチの家族は仲が良いから揉めない」 そう思って対策を先送りにした結果、社長の「万が一」の際に、残されたご家族が争い、大切に育ててきた会社が立ち行かなくなるケースを、私たちは弁護士として数多く見てきました。

私たち弁護士は、単に法律の知識を提供するだけではありません。

<生前の対策として>

・現状(株式の状況、資産、負債、相続人の関係)を法的に整理します。

・遺留分トラブルを最小限に抑える、法的に有効かつ効果的な「遺言書」の作成をサポートします。

・種類株式の導入など、会社法を使った高度な対策もご提案できます。

<相続発生後の対応として>

・「相続人が誰か(相続人調査)」「財産がどれだけあるか(相続財産調査)」を正確に行います。

・ご依頼者様の代理人として、他の相続人との「遺産分割協議」や「遺産分割調停」の交渉を行います。

・遺留分侵害額請求を「受けた」方、「請求したい」方、どちらの立場でもサポートします。

・相続放棄の手続きや、煩雑な相続手続きのすべてをお任せいただくことも可能です。

会社経営者の相続は、まさに「時間との勝負」です。 問題が起きてからでは、打てる手が限られてしまいます。

蒼生法律事務所は、あなたの会社と、あなたの大切なご家族を守るため、法的な側面から全力でサポートします。

「何から相談していいか分からない」という状態でも構いません。 まずは、あなたの会社の現状や、ご家族への想いを、私たち弁護士にお聞かせください。

「まず何をすべきか」を一緒に整理することから始めましょう。 どうぞ、お気軽にお問い合わせください。