
皆さん、こんにちは。蒼生(そうせい)法律事務所の代表弁護士、平野潤です。
「相続」というと、少し身構えてしまう方も多いかもしれません。しかし、誰の身にも起こりうる、とても大切な問題です。特に、ご自身の財産を誰に、どのように遺したいかという想いを形にする「遺言書」は、残されたご家族が円満に相続手続きを進めるための、いわば「最後のラブレター」とも言えるでしょう。
ただ、この大切な遺言書ですが、書き方や扱い方を少し間違えただけで、法的に無効になってしまったり、かえってご家族間の争いの火種になってしまったりするケースが後を絶ちません。
そこで今回は、遺言書にまつわる「よくある間違い」や「勘違い」を、具体的な失敗事例を交えながら7つのケースに分けて、皆さんに分かりやすく解説していきたいと思います。ご自身の、そしてご家族の未来のために、ぜひ最後までお付き合いください。
ケース1:良かれと思って書いたのに…「遺言能力」がなくて無効に!

【失敗事例】 数年前から認知症を患っていた父が、亡くなる直前に「全財産を長男に譲る」という遺言書を自筆で残していました。しかし、当時、父は自分の名前や日付を書くのがやっとの状態で、本当に内容を理解して書いたのか疑問です。この遺言書は有効なのでしょうか?
【解説】 非常に残念ですが、この遺言書は無効と判断される可能性が高いです。
遺言書が法的に有効と認められるためには、書いた当時に「遺言能力(いごんのうりょく)」があったことが大前提となります。
●専門用語解説:遺言能力とは?
| 用語 | 説明 |
|---|---|
| 遺言能力 | 簡単に言うと、「自分が亡くなった後、自分の財産を誰に、どれだけ遺すか」という遺言の内容を正しく理解し、その結果どうなるかを判断できる能力のことです。 |
認知症や知的障害、精神障害などにより、この遺言能力が欠けていると判断された場合、たとえ形式が整った遺言書であっても、その効力は認められません。
「でも、うちは大丈夫」と簡単に思わないでください。遺言書が作成された当時に、ご本人がどれだけ正常な判断能力を持っていたかを後から証明するのは、実は非常に難しい問題です。ご家族の間で「書いた当時はしっかりしていた」「いや、もう物忘れがひどかった」と意見が分かれ、裁判にまで発展するケースも少なくありません。
ちなみに、病気で寝たきりだったり、四肢が麻痺していたりしても、意識や判断能力がはっきりしていれば遺言書を作成することは可能です。ご自身で字が書けない場合は、公証人という専門家がご本人の話した内容(口授:くじゅと言います)を筆記して作成する「公正証書遺言」という方法もあります。
【ポイント】
ご高齢の方や病気療養中の方が遺言書を作成する際は、後々の紛争を防ぐためにも、作成当時に判断能力が十分にあったことを客観的に示せるようにしておくことが重要です。例えば、作成日に合わせて医師の診断書を取得しておく、弁護士や公証人といった専門家を交えて作成するなどの対策が有効です。
| 客観化の例 |
|---|
| 作成日に合わせて医師の診断書を取得しておく |
| 弁護士や公証人といった専門家を交えて作成する |
ケース2:手軽に作ったつもりが…法律で決められた「形式」を守っていなかった!

【失敗事例】 故人が生前にパソコンで作成し、印刷したものが見つかりました。日付や財産内容はしっかり書かれており、最後の署名だけは手書きで、印鑑も押してあります。手軽で読みやすいのですが、これは遺言書として認められますか?
【解説】 残念ながら、この遺言書も無効です。
遺言書は、民法という法律で厳格な「形式(ルール)」が定められています。特に、ご自身で作成する「自筆証書遺言(じひつしょうしょいごん)」は、手軽な反面、この形式を守れていないために無効となるケースが非常に多いのです。
●専門用語解説:自筆証書遺言のルール
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 1 | 遺言の全文 |
| 2 | 作成した日付(「令和〇年〇月〇日」と正確に) |
| 3 | ご自身の氏名 |
| 押印 | そして、最後に押印が必要です。 |
※法改正により、財産目録についてはパソコンでの作成や通帳のコピーを添付することも可能になりましたが、その全てのページに署名・押印が必要です。
この事例のように、本文がパソコンで作成されているものは「全文を自書」という要件を満たしていないため、無効となってしまいます。日付が「〇月吉日」となっているものや、押印がないものも同様に無効です。
【ポイント】
形式の不備という、ほんの些細なミスで、故人の大切な想いが全て無に帰してしまう可能性があります。形式に不安がある場合は、公証人が作成に関与し、形式不備の心配がほぼない「公正証書遺言(こうせいしょうしょいごん)」の作成を強くお勧めします。
ケース3:内容をちょっとだけ変更…「修正方法」のルール違反!

【失敗事例】 一度書いた自筆証書遺言を見直した父が、「不動産を譲る相手を長男から次男へ変更したい」と考え、長男の名前を二重線で消し、その上に次男の名前を書いて訂正印を押していました。この修正は有効でしょうか?
【解説】 この修正方法も、残念ながらルール違反です。
遺言書の内容を修正(変更・追加・削除)する場合にも、法律で厳格なルールが定められています。
●専門用語解説:遺言書の正しい修正方法
| 手順 | 内容 |
|---|---|
| 1 | 変更したい箇所を二重線などで示す。 |
| 2 | その近くに正しい内容を書き加える。 |
| 3 | 遺言書の余白などに「〇行目の〇文字を削除し、〇文字を書き加えた」というように、どこをどう変更したかを書き記す(付記:ふきと言います)。 |
| 4 | その付記した部分に、遺言者本人が署名する。 |
| 5 | 変更箇所に押した印鑑と同じ印鑑を、変更した箇所(二重線の上など)に押す。 |
この手順を守らない修正は、法的に無効とされます。事例のケースでは、修正前の「長男に譲る」という内容が有効なままになってしまいます。これでは、故人の最後の想いを実現できません。
【ポイント】
遺言書の修正は非常に複雑で、間違いが起こりやすいポイントです。内容を少しでも変更したい場合は、安易に修正しようとせず、面倒でも全文を書き直すことをお勧めします。
ケース4:遺言書が2通見つかった!どっちが優先されるの?
【失敗事例】 亡くなった母の遺品を整理していると、2通の遺言書が見つかりました。1通目(5年前の日付)には「全財産を長女に相続させる」とあり、2通目(1年前の日付)には「A銀行の預金は次女に相続させる」と書かれています。どう解釈すれば良いのでしょうか?
【解説】 複数の遺言書が見つかった場合、原則として「日付が最も新しい遺言書が優先される」というルールがあります。
ただし、これは「新しい遺言書が、古い遺言書の内容と抵触する(矛盾する)部分について優先される」という意味です。
| 財産 | 適用 |
|---|---|
| 「A銀行の預金」については、新しい遺言書の内容が優先され、次女が相続します。 | 新しい遺言書が優先 |
| それ以外の財産(A銀行の預金と抵触しない部分)については、古い遺言書の内容が生きていると解釈され、長女が相続することになります。 | 古い遺言書が適用 |
一見、これで解決しそうですが、これが新たなトラブルの火種になることも。「母は最後に心変わりして、本当は次女にもっと多くの財産を遺したかったのではないか」「いや、預金以外は全て長女にという意思は変わっていないはずだ」など、相続人間で解釈が分かれ、争いに発展する可能性があります。
【ポイント】
遺言の内容を変更したい場合は、古い遺言書を破棄した上で、「以前の遺言は全て取り消す(撤回する)」という一文を加えた、新しい遺言書を全文作成するのが最も安全で確実です。
ケース5:タンスにしまったはずが…肝心な時に「保管方法」の失敗!
【失敗事例】 父は生前、「大事なものだから」と言って、遺言書を自宅の仏壇の引き出しにしまっていました。しかし、父が亡くなった後、空き巣に入られてしまい、引き出しごと盗まれてしまいました。遺言書の内容が分からず、相続手続きが進められません。
【解説】 これは非常にお気の毒なケースですが、自筆証書遺言の保管には常にこうしたリスクが伴います。
せっかく完璧な遺言書を作成しても、いざという時に相続人に発見されなかったり、破損・汚損(破れたり、濡れて読めなくなったり)したり、この事例のように紛失・盗難に遭ってしまっては元も子もありません。悪意のある相続人によって、隠されたり、破棄されたりする危険性もゼロではありません。
【ポイント】
遺言書の保管は、安全で確実な方法を選びましょう。
| 方法 | 説明 |
|---|---|
| 法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を利用する | 全国の法務局で、自筆の遺言書を預かってくれる制度です。 原本を安全に保管してもらえる上、遺言書の検認手続きも不要になります。 紛失や改ざんのリスクがなく、相続開始後には相続人へ通知が行く仕組みもあります。 |
| 「公正証書遺言」を作成する | 公正証書遺言の場合、その原本は公証役場に厳重に保管されます。 これが最も安全で確実な方法と言えるでしょう。 |
【出典】 自筆証書遺言書保管制度(法務省), https://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00051.html
ケース6:「全財産を長男へ」その一文が招いた骨肉の争い
【失敗事例】 「長年にわたり、私の介護を一身に担ってくれた長男に、私の全財産を相続させる」という父の遺言書が見つかりました。しかし、他に兄弟が2人います。私たちは一円ももらえないのでしょうか?納得いきません。
【解説】 たとえ遺言書に「全財産を長男へ」と書かれていても、他のご兄弟が全く財産を受け取れないわけではありません。法律には「遺留分(いりゅうぶん)」という制度があるからです。
●専門用語解説:遺留分とは?
| 用語 | 説明 |
|---|---|
| 遺留分 | 兄弟姉妹を除く法定相続人(配偶者、子、親など)に対して、法律上、最低限保障されている遺産の取り分のことです。 遺言によってこの遺留分が侵害された場合、侵害された相続人は、財産を多く受け取った人に対して、侵害された分に相当する金銭の支払いを請求することができます。 これを「遺留分侵害額請求(いりゅうぶんしんがいがくせいきゅう)」と言います。 |
この事例では、長男以外の兄弟は、長男に対して遺留分侵害額請求を行うことで、法律で定められた割合の金銭を受け取る権利があります。
遺言を書く側としては、特定の誰かに感謝の気持ちを込めて多くの財産を遺したいと考えるのは自然なことです。しかし、他の相続人の遺留分を完全に無視した内容は、ご自身の死後、かえって子供たちの間に深刻な争いを引き起こす原因になりかねません。
【ポイント】
遺言書を作成する際は、ご自身の想いを実現しつつも、他の相続人の遺留分にも配慮した内容にすることが、円満な相続の鍵となります。
また、相続財産の評価や、生前の贈与(特別受益)の有無、介護などの貢献(寄与分)なども複雑に関係してくるため、専門家である弁護士に相談しながら内容を検討することが望ましいでしょう。
【出典】 遺留分制度の見直し(法務省), https://www.moj.go.jp/content/001263484.pdf
ケース7:良かれと思った表現が…「内容が曖昧」で解釈トラブル!
【失敗事例】 「自宅不動産は妻に。預貯金については、子供たちで仲良く分けてほしい」というシンプルな遺言書。一見、問題なさそうですが、預貯金が複数の銀行に分かれており、「仲良く」の具体的な分け方で子供たちの意見が対立してしまいました。
【解説】 これも、非常によくあるトラブルのパターンです。
遺言書は、誰が読んでも一つの意味にしか解釈できないように、具体的かつ明確に記載する必要があります。
| 観点 | 記載のポイント |
|---|---|
| 財産の特定 | 単に「預貯金」と書くだけでなく、「〇〇銀行〇〇支店、普通預金、口座番号1234567」というように、誰が見てもどの財産のことか分かるように特定して記載しましょう。 不動産であれば、登記簿謄本(登記事項証明書)の記載通りに正確に書くことが重要です。 |
| 表現の具体性 | 「仲良く」「よしなに」「適切に」といった曖昧な表現は、相続人それぞれの解釈の違いを生み、トラブルの元凶となります。 「長男に3分の2、次男に3分の1の割合で相続させる」のように、具体的な割合や金額を明記しましょう。 |
【ポイント】
ご自身の想いを正確に伝えるためにも、財産や分け方については、できる限り具体的で明確な言葉で記載することを心がけてください。
まとめ:その遺言書、本当に大丈夫?専門家への相談が円満相続への近道です
ここまで、遺言書にまつわる7つの失敗事例を見てきました。良かれと思って書いた遺言書が、ほんの少しの勘違いや知識不足で、全く意味のないものになったり、残されたご家族を争わせてしまったりするのは、あまりにも悲しいことです。
こうした失敗を防ぎ、ご自身の最後の想いを確実に実現するためには、遺言書の作成段階から法律の専門家である弁護士にご相談いただくのが最も安全な方法です。
【弁護士に依頼するメリット】
- 法的に有効な遺言書を作成できる:
形式不備などで無効になる心配がありません。 - 将来の紛争を予防できる:
遺留分など、相続人間のトラブルになりそうな点をあらかじめ考慮した、最適な内容をご提案します。 - 「遺言能力」の証明をサポート:
医師の診断や、作成時の状況を記録に残すなど、後日、遺言の有効性が争われた際の有力な証拠作りをお手伝いします。 - 財産調査や相続人調査も任せられる:
正確な財産目録の作成や、複雑な相続関係の調査も一括でサポートします。 - 遺言の実現まで責任を持つ「遺言執行者」に就任できる:
ご自身の死後、遺言の内容通りに名義変更などの手続きをスムーズに進める「遺言執行者」に、弁護士を指定しておくことも可能です。
遺言書は、残されたご家族への最後の贈り物です。その贈り物が、争いの種ではなく、感謝と愛情のメッセージとして正しく伝わるように、私たち専門家がお手伝いします。
蒼生法律事務所では、ご依頼者様お一人おひとりのお気持ちやご家族の状況を丁寧にお伺いし、最適な遺言書の作成から、その後の相続手続きまで、トータルでサポートさせていただきます。
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2004年の弁護士登録以降、個人・法人問わず幅広い事件を担当し、クライアントにとっての重大事には誠実かつ丁寧に寄り添う。命運に配慮し、最善策を模索。豊富な実績と十分なコミュニケーションで、敷居の高さを感じさせない弁護士像を追求してきた。1978年大阪府出身、京都大学法学部卒業。2011年に独立。不動産・労務・商事・民事・破産・家事など多様な分野を扱い、2024年6月に蒼生法律事務所へ合流。相続・遺言


