事例解説!相続人の一人と連絡が取れない場合の対応

皆さん、こんにちは。 蒼生(そうせい)法律事務所、代表弁護士の平野潤です。
遺産相続の手続きは、ただでさえ精神的な負担が大きいものですが、それに輪をかけてご遺族を悩ませるのが、「相続人の一人と連絡が取れない」という問題です。
「何十年も会っていない前妻との間の子供がいるらしい」
「家出をしたきり、どこにいるか分からない兄弟がいる」
「海外に移住した親族の連絡先が分からない」
このような状況は、実は決して珍しいことではありません。 しかし、連絡が取れないからといってその相続人を無視して手続きを進めてしまうと、後で全てが白紙に戻るような、取り返しのつかない事態に発展する可能性があります。
今回は、連絡が取れない相続人がいる場合に、絶対にやってはいけないことと、法律に則った正しい対処法を、事例を交えながら分かりやすく解説していきます。

大原則!遺産分割は「相続人全員の合意」がなければ無効!

まず、相続における最も重要なルールからお話しします。 亡くなった方(被相続人といいます)の遺産を、誰が、どのように分けるかを決める話し合いを「遺産分割協議(いさんぶんかつきょうぎ)」といいます。
この遺産分割協議は、法律上の相続人全員が参加し、全員が合意しなければ法的に成立しません。
たとえ99%の相続人が合意していても、たった一人でも参加していない、あるいは合意していない相続人がいれば、その遺産分割協議は「無効」となってしまいます。銀行預金の解約も、不動産の名義変更(相続登記)も、一切進めることができなくなるのです。
だからこそ、「連絡が取れない相続人」の問題は、見て見ぬふりのできない、避けは通れない課題なのです。

ケース別!連絡が取れない相続人がいる場合の対処法

ケース1:戸籍をたどれば見つかるかもしれないケース(例:疎遠な前妻の子など)

長年付き合いがなくても、相手が国内のどこかで生活している可能性は十分にあります。この場合、最初に行うべきは徹底的な「相続人調査」です。

弁護士の対応ステップ:

1. 戸籍の収集
亡くなった方の「出生から死亡まで」の全ての戸籍謄本(こせきとうほん)等を取得します。
これにより、離婚歴や、認知している子供の有無などが全て明らかになり、法的な相続人全員を確定させます。
2. 戸籍の附票(ふひょう)で住所を追跡
戸籍が確定したら、各相続人の「戸籍の附票」を取得します。
これは、その戸籍が作られてから現在までの住所の履歴が記録された書類です。
これをたどることで、現在の住民票上の住所を突き止められる可能性が高いです.
3. 手紙での連絡
住所が判明したら、いきなり電話などをするのではなく、まずは弁護士から「〇〇様が亡くなられ、あなたが相続人となりました。
遺産分割協議にご協力ください」という内容の丁寧な手紙を送付し、コンタクトを試みます。

「前妻との子」や「疎遠な兄弟」といったケースの多くは、この段階で連絡がつき、話し合いに進むことができます。ご自身で戸籍を読み解き、遠方の役所に何度も戸籍を請求をするのは大変な労力ですので、最初の段階から専門家にご相談いただくのがスムーズです。

ケース2:住所が不明で、どうしても見つからないケース(例:家出、行方不明)

戸籍の附票をたどっても住民票上の住所が判明しない、あるいはその住所に住んでいる実態がない場合、次の法的手段を検討します。

解決策:不在者財産管理人(ふざいしゃざいさんかんりにん)の選任
これは、行方不明となっている相続人の代わりに、その人の財産を管理し、遺産分割協議に参加する代理人(管理人)を家庭裁判所に選んでもらう制度です。
弁護士などがこの管理人に選任されることが多く、管理人は行方不明の相続人の「法定代理人」として遺産分割協議に参加し、合意することができます。これにより、他の相続人は有効に遺産分割を成立させ、手続きを進めることが可能になります。
ただし、この管理人はあくまで行方不明者の利益を守る立場です。他の相続人に一方的に有利な内容の分割案には同意しないため、分割内容は法定相続分に基づいた公平なものにする必要があります。

【出典】 不在者財産管理人の選任(裁判所)、https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_05/index.html

ケース3:長年(7年以上)生死不明のケース

家出などから7年以上、全く音沙汰がなく、生きているかどうかも分からない、という深刻なケースでは、より強力な法的手続きがあります。

解決策:失踪宣告(しっそうせんこく)の申立て
これは、7年以上生死不明の人について、家庭裁判所の手続きを経て、法律上「死亡したもの」とみなす制度です。
失踪宣告が認められると、その行方不明者は法律上死亡したものと扱われるため、遺産分割協議に参加する必要がなくなります。もしその行方不明者に子供がいれば、その子供が代わって相続人(代襲相続人といいます)となります。
これは非常に強力な制度ですが、申立てから認められるまで1年近くかかることもあり、あくまで最終手段と位置づけられています。

【出典】 失踪の宣告(裁判所)、https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_06/index.html

絶対NG!連絡が取れない相続人を無視するリスクと失敗談

「どうせ見つからないだろう」「話し合いが面倒だ」 こんな理由で、連絡の取れない相続人を無視して手続きを進めると、どうなるのでしょうか。

失敗談: Aさんは、父の相続にあたり、行方不明の兄を除いた他の兄弟だけで遺産分割協議書を作成。実家の不動産をAさん名義に登記し、銀行預金も解約してしまいました。数年後、ひょっこり兄が帰ってきて自分の相続分を主張。「あの遺産分割は無効だ!」と訴訟を起こされ、Aさんは不動産の登記を元に戻し、解約した預金も全て精算し直すという、大変な手間と費用の負担を強いられました。

このように、相続人が一人でも欠けた遺産分割協議は完全に無効です。 その結果、以下のような深刻なリスクが発生します。

不動産が売れない、活用できない
不動産の名義変更ができないため、売却したり、担保に入れて融資を受けたりすることができません。
固定資産税の負担だけが続く「塩漬け不動産(負動産)」になってしまいます。
預貯金が引き出せない:金融機関は、相続人全員の同意がなければ、原則として預金の解約に応じてくれません(※相続預金の仮払い制度というものがあります)。
後日の紛争勃発:後からその相続人が現れた場合、全ての協議をやり直す必要があり、深刻なトラブルに発展します。

「面倒だから」という安易な判断が、将来もっと大きな面倒を引き起こす原因になるのです。

相続で困ったら、なぜ弁護士に相談すべきなのか

連絡が取れない相続人がいるケースは、ご自身だけで解決するのは極めて困難です。私たち弁護士にご依頼いただければ、以下のような包括的なサポートが可能です。

1. 専門的な相続人調査
職務上の権限を使い、戸籍や附票を正確かつ迅速に収集・解読し、連絡先を徹底的に調査します。
2. 複雑な裁判所手続きの代理
「不在者財産管理人」や「失踪宣告」など、専門知識が不可欠な裁判所への申立て手続きを全て代行します。
3. 第三者としての中立的な交渉:相続人が見つかったものの、感情的な対立で話し合いが進まない場合でも、弁護士が間に入ることで冷静な交渉が可能になります。
4. 精神的・時間的負担の軽減:何より、複雑でストレスの多い手続きの全てを専門家に任せることで、ご自身の貴重な時間と心の平穏を守ることができます。

おわりに

遺産相続は、時に、ご家族がこれまで知らなかった人間関係を浮き彫りにします。連絡が取れない相続人の存在は、法的な手続きの壁であると同時に、ご家族の歴史と向き合う機会ともいえるかもしれません。
しかし、その重荷をお一人で背負う必要はありません。法律には、このような困難な状況を乗り越えるための知恵と手続きがきちんと用意されています。
もしあなたが「連絡の取れない相続人がいて困っている」という状況でしたら、どうか一人で悩まず、私たち専門家にご相談ください。あなたの状況を丁寧にお伺いし、法的に最も安全で、かつ円満な解決への道筋を一緒に見つけ出します。
蒼生法律事務所では、相続に関する初回相談を無料で承っております。まずはお気軽にお問い合わせください。