こんにちは! 蒼生(そうせい)法律事務所、代表弁護士の平野 潤です。
いつもブログをお読みいただき、ありがとうございます。
相続のご相談の中でも、特に複雑化しやすいのが「アパートや賃貸マンション、貸地などの不動産」を複数お持ちだった方、いわゆる「不動産オーナー」の相続です。
「資産がたくさんあっていいね」と思われるかもしれませんが、実は、預貯金や株の相続とは比べ物にならないほど、特有の「落とし穴」がたくさんあります。
「うちはアパート経営をしているから…」という方、 「親が亡くなって、突然『大家さん』になってしまった」という方、
今回は、不動産オーナーの相続で特に注意すべき「5つのポイント」を、初心者の方にも分かりやすく解説していきます。
ポイント1:不動産は「ハサミで切れない」という大問題

相続が始まると、亡くなった方(被相続人といいます)の財産は、原則として相続人全員の「共有財産」となります。
預貯金であれば、1円単位でキッチリと法律どおりの割合(法定相続分といいます)で分けられます。
しかし、不動産は「ハサミで切って分ける」ことができません。
よくある勘違い:「とりあえず共有名義に」
相続人の皆さんで話し合い(これを遺産分割協議といいます)がまとまらず、「とりあえず法定相続分どおり、全員の共有名義で登記しよう」と考える方がいます。
これは、問題を先送りしているだけで、最も避けるべき選択の一つです。
なぜなら、共有名義の不動産は、共有者「全員」の同意がないと売却も、大規模な修繕も、新たな賃貸もできなくなるからです。
「私は売りたい」「僕は貸し続けたい」「私は更地にしたい」… 一人でも意見が対立すれば、その不動産は「塩漬け」状態になってしまいます。
また、不動産は「評価額」が分かりにくいのも特徴です。「路線価」「固定資産税評価額」「実勢価格(時価)」など、どの金額を基準に分けるかで、また揉めてしまうのです。
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 共有名義のリスク | 共有者「全員」の同意がないと売却も、大規模な修繕も、新たな賃貸もできなくなる |
| 意見対立の結果 | 一人でも意見が対立すれば、その不動産は「塩漬け」状態になる |
| 評価額の難しさ | 「路線価」「固定資産税評価額」「実勢価格(時価)」など、どの金額を基準に分けるかで揉めやすい |
ポイント2:「大家さん(賃貸人)の地位」も相続される

不動産オーナーが亡くなった場合、相続人が相続するのは「アパートの建物」というモノだけではありません。
亡くなったオーナーがテナント(入居者)と結んでいた「賃貸借契約」における、「大家さん(賃貸人)としての地位」も、そっくりそのまま相続します。
| 用語 | 説明 |
|---|---|
| 借家(しゃっか) | アパートやマンションの「建物」を貸している場合です。 相続人は、新しい大家さんとして、家賃をもらう権利と、建物を修繕する義務を引き継ぎます。 |
| 借地(しゃくち) | アパートではなく、「土地」だけを貸している場合です。 相続人は、新しい地主さんとして、地代をもらう権利を引き継ぎます。 |
| 借地権(しゃくちけん) | これは通常「借りる側」の権利ですが、亡くなった方が地主さんから土地を借りて、 その上にアパートを建てていた場合、この「土地を借りる権利(借地権)」も相続財産になります。 |
「相続したのはいいけど、管理は面倒だからやりたくない」と思っても、入居者がいる限り、大家さんとしての責任(例えば「お湯が出ないから直して!」といった要求への対応)から一方的に逃れることはできません。
ポイント3:見落としがちな「隠れ債務」~敷金・保証金

これが非常に大きな落とし穴です。
アパート経営をしていれば、必ず入居者さんから「敷金(しききん)」や「保証金(ほしょうきん)」を預かっています。
よくある間違い:「敷金は儲けの一部」
敷金は、大家さんのものではありません。あくまで「預かっているお金」です。 そして、入居者が退去する際には、原則として(クリーニング代などを差し引いて)返還しなければならない「債務(借金)」です。
この「敷金返還債務」も、相続の対象です。
例えば、亡くなったお父様がアパートを経営しており、生前に敷金をすべて使い込んでしまっていたとします。
アパートを相続した長男は、将来、入居者が退去する際、お父様が預かったはずの敷金を、長男自身の財産から支払わなければならないのです。
総戸数が多いアパートの場合、この隠れ債務が数百万~数千万円にのぼることもあり、「こんなはずじゃなかった」と青ざめるケースは少なくありません。
ポイント4:入居者の「人」の問題~高齢化・夜逃げ・孤独死

アパート経営は「人」を相手にするビジネスです。建物だけでなく、「入居者」に関わるリスクも引き継がれます。
賃借人の高齢化・認知症
最近非常に増えているのが、入居者さんの高齢化に伴うトラブルです。
- 認知症が進み、家賃の支払いを忘れてしまう(滞納)。
- ゴミ出しのルールが守れず、近隣からクレームが来る。
- 室内で亡くなってしまう(孤独死)。
夜逃げ・相続人不明
もし入居者さんが家賃を滞納したまま「夜逃げ」したり、亡くなったものの「相続人が誰もいない(相続人不明)」場合、大家さんはどうなるでしょう。
契約者がいないからといって、勝手に部屋の鍵を開けて、荷物を運び出すことはできません。 これをやってしまうと、法律違反(自力救済の禁止)となり、逆に大家さんが損害賠償を請求されるリスクがあります。
このような場合、裁判所に申立てを行い、法的な手続き(相続財産管理人の選任など)を経て部屋を明け渡してもらう必要があり、多大な時間と費用がかかります。
ポイント5:「争族」対策としての税金対策と遺言書

不動産オーナーの相続は、財産が高額になりがちなため、「相続税」の心配も大きいですが、それ以上に怖いのが、相続人間での争い=「争族(そうぞく)」です。
税金対策の落とし穴
よく「相続税対策でアパートを建てよう」という話があります。確かに、現金で持っているより、アパート(貸家建付地)として持つほうが、相続税の「評価額」は下がります。
しかし、これは「分けやすさ」を無視した対策です。 現金を1億円残せば、相続人3人で3333万円ずつキッチリ分けられます(遺産分割は簡単です)。 しかし、1億円のアパートを1棟残すと、ポイント1で述べた「どうやって分けるの?」という最大の揉め事を誘発してしまうのです。
最善の対策は「遺言書」
不動産オーナーが必ずやっておくべき生前対策は、「遺言書(ゆいごんしょ)」の作成です。
「アパートA棟は、経営の分かる長男に」 「自宅の土地建物は、同居してくれた妻に」 「次男と長女には、代わりとして現金を〇〇万円ずつ」
このように、生前に「誰に」「どの不動産を」相続させるか、明確に指定しておくことで、相続人同士の無用な争いを防げます。
ただし、ここでも注意点があります。それが「遺留分(いりゅうぶん)」です。
遺留分とは、簡単に言えば「特定の相続人(配偶者や子など)に法律上最低限保障されている、相続財産の取り分」のことです。
たとえ遺言書で「全財産を長男に」と書いても、他の相続人(次男や長女)は、「私の遺留分が侵害された」として、長男に対し、侵害された分に相当する「お金」を請求する権利があります(これを「遺留分侵害額請求」と呼びます)。
出典:
民法(相続法)改正 – 遺留分制度の見直し(法務省), https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00222.html
遺言書を作る際は、この遺留分にも配慮した「財産の分け方」を設計しないと、かえって紛争の火種を残すことになってしまいます。
弁護士に依頼するメリット

不動産オーナーの相続は、法律問題のデパートのようなものです。遺産分割、賃貸借契約、敷金返還、滞納家賃の回収、相続税、遺留分…と、あらゆる問題が絡んできます。
私たち弁護士は、これらの複雑な問題を整理し、ご家族が「争族」にならないためのお手伝いをします。
<生前の対策として>
・ご意向を伺いながら、遺留分にも配慮した法的に有効な「遺言書」の作成をサポートします。
・税理士と連携して、不動産を管理する「法人(資産管理会社)」の設立など、高度な生前対策もご提案します。
<相続発生後の対応として>
・「誰が相続人か(相続人調査)」「財産や債務(敷金など)がどれだけあるか(相続財産調査)」を正確に行います。
・ご依頼者様の代理人として、感情的になりがちな「遺産分割協議」や「遺産分割調停」の交渉を有利に進めます。
・「遺留分侵害額請求」をされた側、したい側、どちらのサポートも可能です。
・もし敷金などの「隠れ債務」があまりに多く、相続したくない場合は「相続放棄」の手続きもサポートします。
出典:
相続の放棄の申述(裁判所), https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_13/index.html
不動産の相続は、単に「資産」を引き継ぐだけでなく、「経営」と「負債」を引き継ぐことになります。 問題がこじれてからでは、打てる手が限られてしまいます。
蒼生法律事務所は、不動産オーナー様と、そのご家族の皆様を、法的な側面から全力でサポートいたします。
「ウチの場合はどうなるの?」「何から手を付ければいいか分からない」 そんな漠然としたご不安でも構いません。
まずは、あなたの状況を整理するところから始めましょう。 どうぞ、お気軽にお問い合わせください。

2004年の弁護士登録以降、個人・法人問わず幅広い事件を担当し、クライアントにとっての重大事には誠実かつ丁寧に寄り添う。命運に配慮し、最善策を模索。豊富な実績と十分なコミュニケーションで、敷居の高さを感じさせない弁護士像を追求してきた。1978年大阪府出身、京都大学法学部卒業。2011年に独立。不動産・労務・商事・民事・破産・家事など多様な分野を扱い、2024年6月に蒼生法律事務所へ合流。相続・遺言


