10分でわかる成年後見制度|相続・遺産分割で困らないための基礎知識と注意点を弁護士が解説

こんにちは! 蒼生(そうせい)法律事務所、代表弁護士の平野潤(ひらのじゅん)です。

突然ですが、皆さんは「成年後見制度(せいねんこうけんせいど)」という言葉を聞いたことがありますか? 「聞いたことはあるけど、よくわからない」「自分には関係ないかな?」と思っている方も多いかもしれません。

しかし、この制度、実は「遺産相続」と密接に関わってくる、とても大切な制度なんです。 例えば、ご両親が認知症などで判断能力が低下してしまった場合、預金口座が凍結されて介護費用が引き出せなくなったり、ご家族が亡くなった後の遺産分割協議(いさんぶんかつきょうぎ)※が進められなくなったり…といった事態が起こり得ます。

※遺産分割協議(いさんぶんかつきょうぎ): 亡くなった方(被相続人)の遺産(財産)を、相続人全員で「誰が」「何を」「どれだけ」もらうかを話し合って決めることです。

今回は、そんな「いざ」という時にご本人とご家族を助ける「成年後見制度」について、できるだけ分かりやすく、親しみやすいトーンで解説していきます! 相続でお悩みの方も、将来に備えたいとお考えの方も、ぜひ7分だけお付き合いください。


そもそも「成年後見制度」って何?どんな時に必要?

成年後見制度とは、一言でいうと、 「認知症、知的障害、精神障害などで、物事を判断する能力が十分でなくなった方を、法律的に保護し、支援する制度」 です。

人は誰でも、年を重ねたり、病気や事故にあったりして、判断能力が低下してしまう可能性があります。 そんな時、

困ったこと(例)
銀行でお金がおろせない…
実家を売って介護施設の入居費用に充てたいのに、契約ができない…
よく分からない訪問販売で、高額な商品を次々と契約させられてしまう…
相続人になったけど、遺産分割協議の内容が理解できず、サインができない…

といった困ったことが起きてしまいます。 このような場合に、ご本人の代わりに財産を管理したり、契約ごとを行ったりする「後見人(こうけんにん)」などを家庭裁判所が選ぶことで、ご本人の財産や権利を守るのが、この制度の目的です。

成年後見制度には2つのタイプがある!

成年後見制度には、大きく分けて「法定後見制度(ほうていこうけんせいど)」と「任意後見制度(にんいこうけんせいど)」の2種類があります。

1. 法定後見制度:判断能力が低下した「後」に利用する

すでにご本人の判断能力が不十分になっている場合に、ご家族などが家庭裁判所に申し立てて、後見人などを選んでもらう制度です。 ご本人の判断能力の程度に応じて、さらに「後見(こうけん)」「保佐(ほさ)」「補助(ほじょ)」の3つのタイプに分かれます。

タイプ 対象 選ばれる人 できること・ポイント
後見 判断能力が常にない状態の方(例:重度の認知症の方など) ⇒「成年後見人」が選ばれます。 本人の代わりに財産管理や契約ごとを全面的に行います。
本人が行った日常生活以外の契約は、後から取り消すこともできます。
保佐 判断能力が著しく不十分な状態の方(例:中程度の認知症の方など) ⇒「保佐人(ほさにん)」が選ばれます。 お金の貸し借りや不動産の売買など、法律で定められた重要な行為について、
本人が行うには保佐人の「同意」が必要です。同意なく行った場合は、後から取り消せます。
補助 判断能力が不十分な状態の方(例:軽度の認知症や障害の方など) ⇒「補助人(ほじょにん)」が選ばれます。 3つの中で最もご本人の意思が尊重されるタイプです。
家庭裁判所が認めた特定の行為についてのみ、補助人が「同意」したり、本人に代わって「代理」したりします。

2. 任意後見制度:判断能力がある「前」に備える

こちらは、まだご本人が元気で、判断能力がしっかりしているうちに、 「将来、もし自分が認知症になったら、この人(任意後見人)に、こんなことをしてもらおう」 と、あらかじめ自分で後見人を選び、支援してもらう内容を「契約」で決めておく制度です。

ポイント:

• 法定後見は、判断能力が低下した後に、家庭裁判所が後見人を選びます。

• 任意後見は、判断能力が低下する前に、ご本人が後見人を選び、契約(公正証書(こうせいしょうしょ)※)を結んでおきます。

※公正証書(こうせいしょうしょ): 公証役場(こうしょうやくば)という公的な機関で、公証人(こうしょうにん)という法律の専門家が作成する、信頼性の高い契約書のことです。


手続きはどうやるの?(法定後見の場合)

法定後見制度を利用するには、家庭裁判所への「申立て(もうしたて)」が必要です。

項目 内容
誰が申立てできる? ご本人、配偶者、四親等内の親族(子、孫、兄弟姉妹、甥姪、いとこなど)、市町村長などです。
どこに申し立てる? ご本人の住民票がある地域の家庭裁判所です。
必要な書類は? これが結構大変です…。申立書、ご本人の戸籍謄本や住民票、財産目録(預貯金、不動産、保険など全財産の一覧)、
収支状況報告書、そして医師の診断書(成年後見用の特別な様式)など、たくさんの書類を集めて作成する必要があります。

費用はどれくらいかかる?

気になる費用ですが、大きく分けて以下の3つがあります。

費用の種類 内容
1. 申立てにかかる実費 収入印紙(数千円程度)、郵便切手(数千円)、登記費用(数千円)などです。
2. 鑑定費用(必要な場合のみ) ご本人の判断能力の程度を医学的に詳しく調べるために、家庭裁判所が医師に「鑑定」を依頼することがあります。
その費用で、5万円~10万円程度かかることが多いです。
3. 後見人などへの報酬 ご家族(親族)が後見人になった場合は無報酬のことも多いですが、弁護士や司法書士などの専門職が後見人になった場合は、報酬が発生します。
報酬額は家庭裁判所がご本人の財産状況などに応じて決定しますが、目安としては月額2万円~6万円程度が多いです。
4. 弁護士費用(申立てを依頼した場合) 上記のような複雑な申立て手続きを弁護士に依頼する場合の費用です。
事務所によって異なりますので、ご相談時に確認してみてください。

誰が後見人になるの?(候補者はなれる?)

申立ての際に「この人に後見人になってほしい」という「候補者」を立てることができます。ご家族(親族)を候補者にすることが多いですね。

ただし! 最終的に誰を後見人に選ぶかを決めるのは、家庭裁判所です。

• 候補者としたご家族が必ず選ばれるとは限りません。

• 財産が多かったり、不動産売却などの難しい手続きが予定されていたり、親族間で意見が対立している(もめている)場合などは、家庭裁判所の判断で、弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門職が後見人に選ばれるケースも増えています。

申立てから決定までの流れと期間

流れ 内容
1. 申立て準備:必要書類(特に診断書)の収集・作成。
2. 家庭裁判所へ申立て
3. 裁判所の調査:裁判所の調査官が、申立人やご本人、
後見人の候補者と面談(「審問(しんもん)」といいます)し、事情を聞きます。
4. (必要な場合)鑑定:医師による鑑定が行われます。
5. 審判(しんぱん):裁判官が「後見を開始します」「この人を後見人に選びます」という決定(審判)を出します。
6. 決定・通知

申立てから決定(審判)までは、かなりスムーズにいけば1~2ヶ月程度で終わることもありますが、鑑定が必要になったり、親族間で争いがあったりすると、3~6ヶ月以上かかることもあります。


ここに注意!制度の「落とし穴」と「よくある勘違い」

成年後見制度は強力なサポート制度ですが、知っておくべき注意点や、よくある勘違いがあります。

注意点1:一度始まると、原則「本人が亡くなるまで」続く
「遺産分割協議が終わったから」「口座凍結が解除できたから」といって、途中で自由にやめることはできません。
ご本人が亡くなるか、奇跡的に判断能力が回復するまで、後見人の役割(と家庭裁判所への報告義務)は続きます。

注意点2:財産は「本人のためだけ」に管理される
後見人が選ばれると、ご本人の財産は厳格に管理されます。
たとえ家族であっても、ご本人の財産を自由に使うことはできなくなります。
(例)「お父さんのお金で、家族みんなで旅行に行こう」「お孫さんにお祝い金をあげよう」といったことは、原則できなくなります。

注意点3:後見人は「介護」をする人ではない
後見人の仕事は、主に「財産管理」と「身上監護(しんじょうかんご)」(本人の生活や健康に配慮し、介護施設への入所契約などを行うこと)です。
食事の世話や身の回りの介護(ヘルパーさんのような仕事)を直接行うわけではありません。
施設に入所されない場合、介護は親族で行っていただく必要があります。

勘違い1:「認知症になったら自動で始まる」は大間違い!
成年後見制度は自動では始まりません。
「申立て」をしない限り、絶対にはじまりません
困った事態になってから「知らなかった!」と慌てるケースが非常に多いです。

勘違い2:「家族だから銀行でお金をおろせる」は危険!
銀行は、口座名義人が認知症であると知った場合、ご家族であっても預金の引き出しを拒否し、口座を凍結することがあります。
後見人でなければ、定期預金の解約や不動産の売却はできなくなります。

勘違い3:「家族(親族)が後見人になれる」とは限らない!
先ほども触れましたが、財産が多い場合や親族間トラブルがある場合、裁判所が専門職を後見人に選任することがあります。
「家族が管理するから大丈夫」と思っていても、申立ててみたら専門職が選ばれた…というケースは珍しくありません。


弁護士に依頼するメリットは?

「手続きが複雑そう…」「ウチの場合はどうなんだろう?」と不安になった方もいらっしゃるかもしれません。 成年後見の申立てや、将来の任意後見契約を弁護士にご相談いただくメリットは、たくさんあります。

1. 面倒な申立書類の作成・収集を任せられる!
一般の方には非常に時間と手間がかかる書類準備を、専門家としてスムーズに進められます。

2. 最適な制度利用をアドバイスできる!
「後見」「保佐」「補助」のどれが適切か、将来のために「任意後見」を準備すべきかなど、ご家族の状況やご本人の財産を伺った上で、法的なアドバイスができます。

3. 弁護士が「後見人候補者」になれる!
ご家族(親族)に後見人をお願いできる方がいない場合や、財産管理が複雑な場合、親族間で揉めている場合など、中立的な立場の専門家である弁護士が後見人(または後見監督人)になることで、円満かつ適正な財産管理が期待できます。

4. 相続問題とワンストップで対応できる!
成年後見制度は、「遺産分割協議」や「相続放棄」、「遺言」と密接に関連します。
蒼生法律事務所では、相続問題全体を見据えた上で、税理士や司法書士、不動産業者などと連携し、「今、何をすべきか」をトータルでサポートできます。


さいごに

成年後見制度は、ご本人とご家族の「これから」を守るための大切な制度です。 しかし、その手続きは複雑で、一度利用を開始すると大きな影響が長く続きます。

「親が最近物忘れがひどくて、お金の管理が心配…」 「相続が発生したけど、相続人の一人が認知症で話が進まない…」 「将来に備えて、元気なうちに任意後見契約を考えておきたい」

私たち蒼生法律事務所は、相続問題のプロフェッショナルとして、成年後見制度のご相談にも力を入れています。 少しでも不安や疑問を感じたら、手遅れになる前に、ぜひ一度、私たち専門家にご相談ください。 「こんなこと聞いてもいいのかな?」と迷う必要はありません。まずはお気軽にお問い合わせいただければ幸いです。


【出典(ご参考)】

この記事は、以下の公的機関の情報を参考に執筆しています。

• ご本人・家族・地域のみなさまへ(成年後見制度とは) (成年後見はやわかり(厚生労働省)) https://guardianship.mhlw.go.jp/personal/

• 法定後見制度とは(手続の流れ、費用) (成年後見はやわかり(厚生労働省)) https://guardianship.mhlw.go.jp/personal/type/legal_guardianship/

• 成年後見制度(後見・保佐・補助)の概要を知りたい方へ (裁判所) https://www.courts.go.jp/saiban/koukenp00/koukenp1/index.html