弁護士が解説! 8月〜9月は相続相談が急増!今すぐ準備すべき「財産目録」作成ガイド


皆さん、こんにちは。蒼生法律事務所の代表弁護士、平野 潤です。
お盆や夏休みの長期休暇、いかがお過ごしでしたでしょうか。久しぶりにご実家に帰省され、ご親族やご兄弟姉妹と顔を合わせる機会があった方も多いことでしょう。
実は、私たち弁護士のもとに相続に関するご相談が急増するのが、まさにこの8月から9月にかけての時期なのです。
「お盆で久しぶりに兄弟が集まったら、親の財産の話になった」 「実家の将来について話し合ったけど、結局どうすればいいか分からなくなった」 「親が元気なうちに、遺産の分け方について希望を聞いておくべきか悩んでいる」
親族が集まる貴重な機会だからこそ、普段は切り出しにくい「相続」の話題が自然と出てくるものです。そして、いざ話し合ってみると、「親の財産が具体的にどれくらいあるのか、誰も正確に把握していない」という現実に直面し、不安になってご相談に来られるケースが後を絶ちません。
もし、この夏、少しでもご実家の相続について考える機会があったのなら、それは絶好のタイミングです。漠然とした不安を具体的な準備へと変える第一歩、それが「財産目録」の作成です。
今回は、数多くの相続案件を手がけてきた弁護士の視点から、将来の「争続」を防ぐための羅針盤となる「財産目録」の作成方法と、その注意点について徹底的に解説します。

なぜ「財産目録」が相続のスタートラインなのか?


相続の話し合いをしようにも、そもそも「分けるべき財産」の全体像が見えていなければ、議論は一歩も前に進みません。そこで必要になるのが「財産目録」です。

【専門用語解説:財産目録(ざいさんもくろく)】

これは、亡くなった方(法律用語で「被相続人(ひそうぞくにん)」といいます)が亡くなった時点で所有していた全ての財産と債務を一覧にしたリストのことです。預貯金や不動産といったプラスの財産だけでなく、ローンや借金などのマイナスの財産も全て書き出します。
財産目録は、いわば遺産相続という航海の「海図」です。この海図がなければ、以下のような事態に陥ってしまいます。

  • 遺産分割協議が始められない:相続人全員で財産をどう分けるか話し合う「遺産分割協議」は、財産の全容が確定していることが大前提です。
  • 相続放棄の判断ができない:プラスの財産より借金などのマイナスの財産が多い場合、「相続放棄」を検討する必要があります。この判断は、原則として相続の開始を知った時から3ヶ月以内に行わなければならず、正確な財産目録がなければ判断ができません。
  • 相続税の申告ができない:相続税の申告と納税は、亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に行う必要があります。申告漏れがあれば、後から重いペナルティが課される可能性があります。
  • つまり、正確な財産目録を作成することこそが、全ての相続手続きの出発点となるのです。
    出典: No.4205 相続税の申告と納税|国税庁

    【完全ガイド】財産目録の作り方と調査のポイント


    では、具体的に財産目録には何をどのように記載すればよいのでしょうか。財産の種類別に、調査のポイントと注意点を解説します。

    (1) 不動産(土地・建物)

    相続財産の中でも、最も価値が大きく、そして最もトラブルになりやすいのが不動産です。

    ●記載すべき情報

  • 所在(地番・家屋番号まで正確に)
  • 地目(宅地、田、畑、山林など)
  • 面積(地積)
  • 固定資産税評価額
  • 名義人(共有の場合は持分割合も)
  • ●調査のポイント

  • 固定資産税の納税通知書:毎年4月~6月頃に市町村から送られてくるこの書類は、不動産調査の基本です。必ず保管しておきましょう。
  • 名寄帳(なよせちょう):納税通知書には、課税されていない私道や山林などが載っていないことがあります。市町村役場で「名寄帳」を取得すれば、その人がその自治体内に所有する不動産の一覧を確認でき、調査漏れを防げます。
  • 登記事項証明書(登記簿謄本):法務局で取得し、正確な地番や所有者、担保(抵当権)の有無などを確認します。
  • ●注意点

  • 遠方の田舎や農地:管理が難しく、売却も困難なケースが多いです。共有名義にしてしまうと、将来的に「所有者不明土地」となるリスクが非常に高いため、誰か一人が相続するか、売却して金銭で分ける(換価分割)などの具体的な方針を決める必要があります。
  • (2) 預貯金

    一見簡単そうに見えますが、意外な落とし穴が多いのが預貯金です。

    ●記載すべき情報

  • 金融機関名・支店名
  • 預金種別(普通、定期など)
  • 口座番号
  • 亡くなった日の残高
  • ●調査のポイント

  • 通帳・キャッシュカード:まずは手元にあるものを全て集めます。
  • 休眠口座:長年使っていない、本人も忘れている「休眠口座」が存在する可能性があります。郵便物や古い書類などを丹念に探しましょう。弁護士に依頼すれば、専門的な方法で調査することも可能です。
  • ネット銀行:通帳がないため、存在に気づきにくい財産です。親御さんがPCやスマホを使っていた場合は、利用履歴などを確認する必要があります。
  • ●注意点

  • 相続が発生すると、金融機関は口座を凍結します。公共料金の引き落としなどができなくなるため、早めに手続きを進める必要があります。各金融機関で「残高証明書」を発行してもらい、正確な残高を確定させましょう。
  • (3) 株式・投資信託などの有価証券

    特に会社経営者や資産家の方の場合、株式の評価が相続の大きな鍵となります。

    ●記載すべき情報

  • 証券会社名・支店名
  • 銘柄名・数量
  • 亡くなった日の終値(評価額)
  • ●調査のポイント

  • 証券会社から定期的に送られてくる「取引残高報告書」や「配当金支払いの通知」が最も重要な手がかりです。
  • 自宅に保管されている株券(現在は電子化されていますが、古いものは現物が存在する場合があります)も確認しましょう。
  • ●注意点

  • 上場株式は評価が容易ですが、ご自身が経営する会社の株式(非上場株式)は評価が非常に複雑です。税理士などの専門家による正確な評価が不可欠となります。評価額を巡って相続人間で争いになることも少なくありません。
  • (4) その他のプラスの財産とマイナスの財産

  • その他のプラスの財産:生命保険金(受取人によっては相続財産にならない場合もあります)、自動車、ゴルフ会員権、貸付金、骨董品や美術品など、金銭的価値のあるものは全てリストアップします。
  • マイナスの財産(債務):住宅ローン、自動車ローン、カードローン、借金、未払いの税金や医療費など。これらを漏れなく調査することが、相続放棄を判断する上で極めて重要です。金銭消費貸借契約書や督促状などが手がかりになります。
  • よくある失敗と勘違い!財産目録作成の落とし穴


    財産目録の作成は、丁寧に行わないと思わぬ落とし穴にはまります。よくある失敗例と勘違いを見ていきましょう。

    勘違い①:「親が『財産なんてない』と言っていたから大丈夫」

    親御さん自身が、ご自身の財産の全容を正確に把握していないことは珍しくありません。特に昔購入したまま忘れている山林や、休眠状態の預貯金などは、本人の記憶から抜け落ちていることが多いのです。
    言葉を鵜呑みにせず、客観的な資料で裏付けを取ることが重要です。

    勘違い②:「家族名義の預金(名義預金)は相続財産ではない」

    例えば「妻名義の口座だけど、資金源は夫の給料だった」という預金は、税務上も法律上も、亡くなった夫の相続財産(実質的な所有者の財産)とみなされる可能性が高いです。
    これを「特別受益」として扱うべきかなど、遺産分割で大きな争点になることがあります。

    【専門用語解説:特別受益(とくべつじゅえき)】
    一部の相続人が、亡くなった方から生前に受けた特別な利益(住宅購入資金の援助、多額の学費、事業資金など)のことです。これは遺産の前渡しとみなされ、相続分を計算する際に考慮され、相続人間の公平を図ります。

    失敗例:財産の評価を自己判断してしまう

    「この土地は田舎だから価値がないだろう」「この絵は二束三文だ」といった素人判断は非常に危険です。
    不動産や美術品などの評価は専門家でなければ難しく、相続人間の不公平感や争いを生む最大の原因となります。

    話し合いがこじれる「寄与分」という論点


    正確な財産目録が完成し、いざ遺産分割協議を始めると、次に出てくるのが「寄与分」という問題です。

    【専門用語解説:寄与分(きよぶん)】
    亡くなった方の財産の維持または増加に、特別な貢献をした相続人が主張できる取り分の上乗せのことです。「長年、無給で家業を手伝ってきた」「親の介護を一身に引き受けてきたことで、施設費用がかからず財産が守られた」といったケースが該当します。

    この寄与分は、「特別受益」と並んで、遺産分割協議を感情的で複雑なものにする代表的な論点です。どれくらいの貢献が「特別」と言えるのか、それを金額に換算するといくらになるのか、客観的な証明は非常に難しく、当事者同士での解決は困難を極めます。
    出典:相続に関する調停 | 裁判所

    なぜ弁護士に「財産目録の作成」から依頼すべきなのか?


    ここまで読んで、「財産目録の作成は、思った以上に大変だ」と感じられたのではないでしょうか。だからこそ、相続のスタートラインであるこの段階から、私たち弁護士にご依頼いただくメリットは非常に大きいのです。

      1.網羅的で正確な財産調査が可能 弁護士は、職務上の権限(弁護士会照会)を用いて金融機関や官公庁に照会をかけることができます。これにより、個人では調査が難しい休眠口座や所在不明の不動産などを突き止め、財産の調査漏れを防ぎます。
      2.客観的で公平な財産評価 不動産鑑定士、税理士といった他の専門家と緊密に連携し、不動産や非上場株式など、評価が難しい財産についても客観的で公平な評価を行います。これにより、後の分割協議での争いの種を未然に摘み取ることができます。
      3.相続手続き全体をワンストップでサポート 正確な財産目録が完成すれば、その後の遺産分割協議書の作成、不動産の名義変更(司法書士と連携)、預貯金の解約・分配、株式の分配・名義変更、そして万が一話し合いがまとまらない場合の遺産分割調停の代理まで、全ての相続手続きをスムーズに進めることができます。
      4.何より、あなたの時間と心の負担を軽減できる 煩雑で時間のかかる調査や手続きを専門家に任せることで、あなたは仕事や日常生活に集中できます。何より、親族間の板挟みになる精神的なストレスから解放されることが、弁護士に依頼する最大のメリットかもしれません。

    まとめ:不安を「準備」に変えるなら、今。

    親族が集まる機会に相続の話が出たのなら、それは「そろそろ準備を始めませんか?」というサインです。その第一歩は、相続財産の全体像を正確に把握する「財産目録」の作成に他なりません。
    将来の家族の絆を守るためにも、相続の問題を一人で、あるいはご家族だけで抱え込まないでください。
    「何から手をつけていいか分からない」 「うちのケースでは、どんな財産が問題になりそうか知りたい」 「面倒な調査や手続きは、全部専門家に任せたい」
    そう感じたら、ぜひ一度、私たち蒼生法律事務所にご相談ください。あなたの状況を丁寧にお伺いし、これから何をすべきか、最善の道筋を一緒に見つけ出します。
    まずは気軽にお問い合わせください。ご連絡を心よりお待ちしております。