相続では、遺言書がある場合、「遺言通りに財産を分けるのが基本」ですが、法定相続人には 「最低限の取り分(遺留分)」 が保障されています。この遺留分が侵害された場合、遺留分侵害額請求 を行い、正当な権利を金銭で取り戻すことができます。
本記事では、遺留分侵害額請求の仕組み・手続き・対策 を 図解・表 を使いながら分かりやすく解説します!
遺留分侵害額請求とは?
遺留分侵害額請求とは、遺言や生前贈与などによって、法律上保障された最低限の相続分(遺留分)が侵害された場合に、侵害された相続人がその侵害額に相当する金銭で補填を求める権利 のことです。
従来の「遺留分減殺請求」では現物そのものの返還を求める権利でしたが、2019年の民法改正で 「金銭請求権」 に変わり、不動産や株などの遺産そのものを返還請求するのではなく 「侵害された分をお金で支払ってもらう」 形になりました。そのため、不動産などを共有状態にすることなく、金銭で解決できるようになり、請求する側にとっても、請求される側にとっても、より柔軟な対応が可能となりました。
💡 なぜ遺留分侵害額請求があるの?
→ 被相続人(亡くなった人)が「全財産を長男に譲る」と遺言を残してしまった場合、他の相続人(例えば次男や配偶者)は何ももらえなくなります。このようなケースを防ぐため、法律で最低限の取り分(遺留分)を保障しているのです。そのため、遺言書を作成する場合にも、相続人間の紛争を防止するために、遺留分を考慮する必要があります。
遺留分の基本(割合・対象)
遺留分の割合は、相続人の立場によって異なります。
相続人の組み合わせ | 遺留分の割合(遺産全体の) |
---|---|
配偶者+子 | 1/2 |
子のみ | 1/2 |
配偶者のみ | 1/2 |
直系尊属のみ(親など) | 1/3 |
兄弟姉妹 | なし(遺留分なし) |
兄弟姉妹には遺留分がない!
→ 遺留分を有するのは、兄弟姉妹外の法定相続人(配偶者、子、直系尊属)です。兄弟姉妹は法律上、遺留分を請求する権利がありませんので、注意が必要です。
【具体例】遺留分の計算
相続財産の総額と、各法定相続人の相続分・遺留分割合を基に、侵害されている遺留分の金額を計算します。相続財産には、被相続人が亡くなった時点の財産だけでなく、一定期間内に行われた生前贈与も含まれる場合があります。
〈ケース〉
- 父が亡くなり、財産は 1億円
- 相続人は 母と長男、次男の3人
- 遺言で「全財産を長男に相続させる」と記載
〈遺留分の計算〉
- 遺産1億円の 1/2 が遺留分の対象 → 5,000万円
- 遺留分は 母と次男で折半 → 2,500万円ずつ請求可能
📌 次男と母は長男に対して、それぞれ2,500万円の遺留分侵害額請求ができる!
遺留分侵害額請求が発生するケース
遺留分侵害額請求は、以下のような場合に発生します。
✅ ケース1:遺言で特定の人に全財産が渡る
📌 例:「遺言で全財産を長男に相続させる」と書かれていた
→ 次男や配偶者は遺留分を請求可能!
✅ ケース2:生前贈与による偏った分配
📌 例:「長男にだけ生前に1億円の不動産を贈与」
→ 次男は遺留分侵害額請求を行い、補填を求めることができる!
✅ ケース3:第三者(知人や法人)への遺贈
📌 例:「全財産を内縁の妻に遺贈」
→ 法定相続人(子や配偶者)は遺留分を請求できる!
遺留分侵害額請求の手続き(流れ)
遺留分侵害額請求は 以下の手順 で行います。
① 内容証明郵便で請求通知を送付
- 遺留分を侵害している相手方に対して、「遺留分侵害額請求権を行使する」ことを伝える
- 証拠を残すために内容証明郵便で送付する
② 交渉(話し合い)
- 相手が納得すれば金銭で解決
- 支払いに応じない場合は調停へ
③ 家庭裁判所の調停
- 裁判官・調停委員が間に入って解決を試みる
- 交渉が決裂した場合、訴訟へ
④ 訴訟(裁判)
- 最終的に裁判で遺留分侵害額を確定
- 判決に基づき金銭を支払ってもらう
遺留分侵害額請求の期限(時効)
遺留分侵害額請求には 時効 があります。期限を過ぎると請求できなくなるため注意が必要!
時効の種類 | 時効の期間 |
---|---|
遺留分侵害を知った日から | 1年以内 |
相続開始(死亡日)から | 10年以内 |
💡 1年を過ぎると請求できなくなる!早めに対応を!
遺留分侵害額請求の注意点
✅ 現金化できない財産もある
→ 不動産や株式など、すぐに現金化できない財産がある場合は分割払いになることも。
✅ 計算が複雑な場合がある
→ 過去の贈与や特別受益などを考慮する必要があり、弁護士や税理士に相談が必要!
✅ 相続人同士の関係が悪化する可能性
→ 家族間のトラブルになるため、交渉は慎重に!
まとめ
✅ 遺留分侵害額請求は、最低限保障された相続分を金銭で請求する権利
✅ 2019年の民法改正により、遺産そのものではなく「金銭請求」になった
✅ 遺留分を有するのは配偶者・子・直系尊属で、兄弟姉妹には遺留分なし
✅ 時効は「1年 or 10年」なので早めに対応が必要
✅ 弁護士に相談することでスムーズな解決が可能
遺留分侵害額請求は、法的知識と正確な財産評価が求められるため、専門家のサポートが不可欠です。
不安がある場合は、早めに弁護士に相談することをおすすめします!

2004年の弁護士登録以降、個人・法人問わず幅広い事件を担当し、クライアントにとっての重大事には誠実かつ丁寧に寄り添う。命運に配慮し、最善策を模索。豊富な実績と十分なコミュニケーションで、敷居の高さを感じさせない弁護士像を追求してきた。1978年大阪府出身、京都大学法学部卒業。2011年に独立。不動産・労務・商事・民事・破産・家事など多様な分野を扱い、2024年6月に蒼生法律事務所へ合流。相続・遺言