ペットも10年、20年と長寿が当たり前になった今、飼い主の「もしも」に備える準備は欠かせません。
ペットは法律上“物”と扱われるため、遺産を直接相続させることはできませんが、遺言書やペット信託といった法的手段を活用することで、大切な家族の一員を守ることができます。
本記事では、ペットを取り巻く法律の基礎から、遺言書の書き方、ペット信託の仕組み、そしてよくあるQ&Aまで、わかりやすく解説します。
飼い主の安心、そしてペットの幸せな未来のために、今こそ「備え」を始めましょう。
ペットのための遺言書作成
ペットも10歳、20歳と長生きすることが想定できる昨今、飼い主が先に亡くなってしまうケースもあり得ます。
ペットは法的には“物”として扱われるため、ペット自体に自分の遺産を相続させることはできません。
飼い主死亡後のペットの生活は遺された家族等の善意に委ねられがちですが、それでは残されるペットの立場が不安定です。
この章では、ペットを守るための遺言書の書き方等を、弁護士がわかりやすく解説します。
遺言書でペットを守る
1.受遺者を指名する | ペットの新しい飼い主(受遺者)を指定する。 |
2.世話料を金銭で遺贈 | ペット飼育の負担義務のある金銭の遺贈(負担付き遺贈)。 |
遺言書に必須の項目
- ペットの個体識別情報(マイクロチップIDや写真、特徴の列記)
- 飼育希望先(遺贈先)の氏名・住所・連絡先
- 飼育費用の金額と飼育者への遺贈文言
- 飼育・治療に関する方針希望内容
- 予備的受遺者(万が一、第一希望が世話できない場合のバックアップ)
まとめ
遺言書を作る前に、自分の死後にペットを任せる人とのコミュニケーションを事前に十分図っておくことが重要です。
いきなりペットを任せると言われたら、その人も困ってしまうでしょう。
飼育の候補者となる人と自分の死後にどうしてほしいか、その費用面はどうするかなどをきちんと話し合っておき、了解を得ておきましょう。
ペットの老後を左右するのは飼い主の“今”の準備です。
法的に有効な遺言書で、大切な家族の未来を守りましょう。
ペット信託の仕組みと活用事例
遺言以外にも、ペット信託で安心の資産管理が実現できます。
この章では、ペット信託の仕組みを具体的に紹介し、ペットライフ終盤の不安を解消します。
遺言書を使った例以外にも信託を活用した事例もあります。
遺言書の場合は、ご自身が他界した時しか効力はありませんが、ペットの高齢化に伴い、ご自身が亡くならずとも心身ともにペットの飼育に耐えられなくなるケースもあります。
その場合には、民事信託(ペット信託)を活用することが一つの解決策となります。
ペット信託の基本構造
委託者 | 飼い主 |
受託者 | 信頼できる信託会社、親族、友人、法人(ペットシッター会社等) |
飼育者 | 受託者から飼育をゆだねられる人。信頼できる親族、友人、法人(ペットシッター会社等) |
受益者 | 飼い主の存命中は飼い主、飼い主の死後はペットの飼育者(受託者と飼育者が同じであれば、信託終了として、受託者がペットをもらうこともあり) |
信託財産 | ペット自身、現金、預金、不動産収益など |
信託契約に盛り込む条項
- 1.飼育方針・医療方針(治療上限額・延命措置の可否)
- 2.飼育者への費用の支払頻度と方法(毎月定額/実費+手数料)
- 3.ペット死亡時の残余財産の帰属先
- 4.信託監督人・受益者代理人の選任とその費用
事例:高齢独身者と老犬のケース
高齢独身の委託者の資産から受託者の信託口座に入金(概ねそのペットの予想寿命を踏まえ、算定)。
受託者兼飼育舎(事例:甥)が月々の飼育費を管理し、年1回の収支報告を信託監督人となった弁護士等にメール等で提出。
飼い主死亡後も信託残高が尽きるまで老犬の終生飼養を実現。
まとめ
ペット信託は“お金の備え”と“人の備え”を同時に実現できる制度です。
具体的な設計は専門家や受託者・飼育者・監督人の候補となる人と綿密に相談し、柔軟かつ確実な運用を目指しましょう。
Q&A:ペット相続でよくあるご質問
ペットに遺産を直接残すことはできますか?
ペットは法的には“物”なので直接相続はできません。
信頼できる人間の受遺者に負担付き遺贈の形で遺産を遺贈するか、信託契約を活用しましょう。
ペット信託と遺言書、どちらを優先すべきでしょうか?
お客様ごとのケースによります。
人により事情は千差万別なので、細かな打ち合わせでベストなスキームを目指しましょう。
飼育費(信託財産)はいくら用意するのが妥当でしょうか?
ペットの平均寿命×月額飼育費+医療費上乗せが目安となります。
ペットの年齢や飼育先にもよりますが、低くとも200万円以上が多いように思います。
信託設定後にペットが亡くなった場合の残余財産はどうなりますか?
契約で帰属先を定めておきましょう。
動物保護団体への寄付も可能です。