皆様、こんにちは。
蒼生(そうせい)法律事務所、代表弁護士の平野 潤(ひらの じゅん)です。
この度は、当事務所のブログをご覧いただき、誠にありがとうございます。
相続というと、多くの方は土地や預貯金といった「プラスの財産」を受け継ぐことをイメージされるかもしれません。しかし、法律上の相続は、借金や保証債務といった「マイナスの財産」も全て引き継ぐのが大原則です。
「亡くなった父には、多額の借金があったらしい…」
「疎遠だった親族が亡くなり、突然、督促状が届いた…」
「財産はいらないから、とにかく一切関わりたくない…」
このような状況に置かれたとき、あなたの人生を守るための、法律が認めた非常に重要な“切り札”があります。それが「相続放棄」という選択肢です。
しかし、この切り札は、使い方を間違えると二度と使えなくなり、取り返しのつかない事態を招くこともあります。
今回の記事では、相続放棄を検討されている方から寄せられる、よくある10のご質問に、Q&A形式で分かりやすくお答えしていきます。あなたの正しい判断の一助となれば幸いです。
相続放棄をするべきか?~判断に迷ったら確認したい10のQ&A
はい、法的にはその通りです。相続放棄をすれば、初めから相続人ではなかったことになります。
お気持ちお察しいたします。相続放棄の大きな目的の一つが、まさにご質問のような「関係からの離脱」です。家庭裁判所で相続放棄の手続きが認められると、あなたは法的に「初めから相続人ではなかった」ものと扱われます。
これにより、プラスの財産を受け取る権利だけでなく、マイナスの財産(借金など)を支払う義務も、全てなくなります。遺産分割協議に参加する必要もなくなり、被相続人だけでなく、他の相続人との法的な関係からも完全に解放されることになります。
まずは「3ヶ月」の期間内に、相続財産の調査を急ぎましょう。
これは非常に難しい判断ですね。相続放棄をするかどうかの基本的な判断基準は、「プラスの財産の総額」と「マイナスの財産の総額」を比べて、どちらが多いかです。
しかし、個人事業主の方の場合、事業上の借入金や買掛金、保証債務など、ご家族が把握していない負債が隠れている可能性があります。
まずは、相続放棄の期限である「相続の開始を知った時から3ヶ月」以内に、弁護士などの専門家に依頼して、信用情報機関への照会や取引先への問い合わせなど、徹底した財産調査を行うことが重要です。調査の結果、明らかに借金の方が多いと判明すれば、迷わず相続放棄を選択すべきです。
原則として「ご自身が相続人であることを知った時から3ヶ月以内」に、「故人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所」に申立てる必要があります。
この「3ヶ月」という期間は「熟慮期間」と呼ばれ、非常に重要です。起算点は「故人が亡くなった日」とは限らず、「自分が相続人になったと知った日」から数えます。この期間はあっという間に過ぎてしまいますので、注意が必要です。熟慮期間を過ぎてしまうと、相続放棄ができなくなってしまいますので、早めの対応が重要です。
手続きは、必要書類(申述書、故人とご自身の戸籍謄本など)を揃えて、故人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に提出(申述)します。郵送での提出も可能です。
出典: 相続の放棄の申述(裁判所)
いいえ、全く完了しません。それは法的な相続放棄ではなく、単なる「相続分の放棄」に過ぎません。
これは非常によくある誤解です。相続人間の話し合いで「私は財産をもらわない」と合意しても、それはあくまで遺産分割協議上の取り決めに過ぎず、相続債務である借金の支払い義務がなくなるわけではありません。債権者(お金を貸した側)は、あなたに対して「法定相続分に従って借金を返済しろ」と請求することができます。
借金も含めて全ての義務から免れるためには、必ず家庭裁判所での手続きが必要だと覚えておいてください。
いいえ、違います。相続放棄をしたあなたは「初めから存在しなかった」と扱われます。
例えば、相続人が配偶者と子2人(あなたと兄)だった場合、あなたが相続放棄をすると、相続人は「配偶者と兄」の2人だけになります。あなたの相続分が、兄や母に上乗せされるわけではありません。残った相続人の法定相続分の割合が、当初とは変わってくる、ということになります。この効果は、遺産分割協議で自分の取り分をゼロにする「相続分の放棄」とは大きく異なる点です。
はい、その通りです。相続権が、次の順位の相続人に移っていくからです。
相続には法律で順位が定められています。
もし、第1順位であるお子様全員が相続放棄をした場合、相続権は第2順位である故人のご両親に移ります。ご両親もすでに亡くなっているか、相続放棄をすれば、今度は第3順位である故人のご兄弟姉妹へと相続権が移ります。
借金がある場合の相続放棄は、このように次々と相続権を移していくため、後々のトラブルを防ぐためにも、次の順位の相続人の方に「自分が放棄したので、次はそちらに相続権が移るかもしれません」と連絡を入れておくのが親切な対応と言えるでしょう。
いいえ、なりません。相続放棄の場合、「代襲相続」は起こりません。
相続には法律で順位が定められています。
これは、上記の質問と並んで非常に重要なポイントです。通常、親が子より先に亡くなっている場合、孫が親の代わりに相続する「代襲相続」という制度があります。
しかし、相続放棄をした場合は、この代襲相続は発生しません。 あなたが相続放棄をすれば、あなたの一家(あなたとあなたのお子様)は、まとめて相続関係から離脱するとイメージしてください。このように、貴方が相続放棄した場合の相続権は、あなたのお子様ではなく、次の順位の相続人に移ることになります。
いいえ、できません。相続放棄は「オール・オア・ナッシング」です。
相続放棄は、「プラスの財産もマイナスの財産も、全てを放棄する」という制度です。自分にとって都合の良い財産だけを選んで相続し、都合の悪い借金だけを放棄する、といった「いいとこ取り」は一切認められません。もし、どうしても土地を残したいのであれば、相続放棄以外の方法(限定承認や、他の相続人との交渉など)を検討する必要があります。
葬儀費用など、社会的に相当と認められる範囲での支出であれば、認められる可能性があります。しかし、非常に危険な行為です。
相続財産を処分(消費、売却など)してしまうと、法律上、相続を承認した(法定単純承認)(すべての遺産を無条件で相続する)とみなされ、原則として相続放棄はできなくなります。
ご質問のケースは、判例上、相続放棄が認められる余地はありますが、個別の事情によるため、一概に「大丈夫」とは言えません。私的な支払いに使ってしまった場合は、ほぼ絶望的です。相続放棄を検討している間は、故人の財産には一切手を付けないことを徹底してください。
相続放棄の手続きは、ご自身でも可能ではありますが、「相続の開始を知った時から3ヶ月」以内と期限が短く、戸籍謄本などの資料を収集整理して裁判所に提出する必要があります。
一度きりの重大な手続きですので、少しでもご不安があるのであれば、専門家である弁護士に任せることを強くお勧めします。
弁護士に依頼するメリットは、主に以下の3点です。
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確実で迅速な手続き
戸籍謄本など、煩雑な必要書類の収集から、裁判所に提出する申述書の作成・提出まで、全てを代理で行います。これにより、期限徒過や書類不備といったミスを防ぎます。
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適切な判断のサポート
把握できていない借金があるなどの判断が難しいケースで、財産調査を行い、本当に相続放棄すべきか、あるいは「限定承認」という別の選択肢はないかなど、法的なアドバイスを提供します。
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精神的な負担の軽減
債権者からの督促などがあった場合も、弁護士が窓口となって対応します。
あなたは、煩わしい手続きや交渉から一切解放されます。
あなたの人生を守る決断、専門家がサポートします
相続放棄は、「3ヶ月」という短い時間との勝負であり、一度手続きをすると二度と撤回できない、非常に重大な決断です。
「よく分からないまま3ヶ月が過ぎてしまった」「借金があるとは知らずに遺産に手をつけてしまった」…。そんな「うっかり」が、あなたの人生を大きく狂わせてしまう可能性があります。
少しでも「相続放棄した方が良いかもしれない」と感じたら、あるいは判断に迷うことがあれば、手遅れになる前に、今すぐ私たち専門家にご相談ください。
私たちは、あなたの状況を正確に把握し、最善の選択ができるよう、法的な知識と経験をもって、全力でサポートすることをお約束します。
あなたの未来を守るための大切な決断です。一人で悩まず、まずは私たちにお話をお聞かせください。
あなたからのお問い合わせを、心よりお待ちしております。

2004年の弁護士登録以降、個人・法人問わず幅広い事件を担当し、クライアントにとっての重大事には誠実かつ丁寧に寄り添う。命運に配慮し、最善策を模索。豊富な実績と十分なコミュニケーションで、敷居の高さを感じさせない弁護士像を追求してきた。1978年大阪府出身、京都大学法学部卒業。2011年に独立。不動産・労務・商事・民事・破産・家事など多様な分野を扱い、2024年6月に蒼生法律事務所へ合流。相続・遺言