弁護士が解説!アパート・賃貸物件の相続における失敗事例5選~注意点と対応

こんにちは! 蒼生(そうせい)法律事務所、代表弁護士の平野 潤です。
いつもブログをお読みいただき、ありがとうございます。
親御さんからアパートや賃貸マンションを相続すると、「これで家賃収入(不労所得)が手に入って安泰だ!」と思われるかもしれません。
しかし、弁護士として多くの相続案件に関わっていると、その「思い込み」が原因で、深刻なトラブルに発展してしまうケースが本当に多いのです。

アパート経営は「資産」であると同時に、「事業」であり「負債」でもあります。「プラス」の面だけでなく、「マイナス」の面もすべて引き継ぐことになるからです。
「知らなかった」では済まされない、アパート・賃貸物件の相続。

今回は、実際にあった相談やトラブルから、特に陥りやすい「典型的な失敗事例5選」を、弁護士の視点から分かりやすく解説していきます。


失敗事例1:「とりあえず共有名義」で”塩漬け”不動産が爆誕!

父が亡くなり、相続人は長男・次男・長女の3人。遺産はアパート1棟(時価5,000万円)と預貯金1,000万円。 遺言書はなかった。

「アパートをどう分けるか」で話し合い(遺産分割協議といいます)がまとまらない。
長男:「自分が管理を引き継ぐから、アパートは全部もらいたい」
次男:「不公平だ。アパートは売却して現金で3等分すべきだ」
長女:「古いアパートだし、売らずにこのまま家賃収入を3人で分けたい」

結論が出ないまま、相続税の申告期限が迫り、仕方なく「法定相続分(法律で決まった割合)どおり、長男1/3、次男1/3、長女1/3」という共有名義で登記してしまった…

【相続のここが失敗!】

この「とりあえず共有名義」、実は最悪の選択肢の一つかもしれません。 なぜなら、共有名義の不動産は、何かをしようとするたびに「共有者全員の同意」が必要になるからです。

• 売却したい → 全員の同意が必要
• 大規模な修繕(例:外壁塗装)をしたい → 全員の同意が必要
• 新しい入居者と契約したい → 過半数の同意が必要

「売却」派の次男と、「賃貸継続」派の長女の意見が対立すれば、このアパートは「売ることも」「(まともに)貸し続けることも」できない、”塩漬け”不動産になってしまいかねません。

家賃収入は入ってきても、修繕もままならないアパートはやがて老朽化し、空室だらけに。
それなのに、毎年「固定資産税」だけは3人に平等に課税され続ける…という負のスパイラルに陥ります。


失敗事例2:入居者退去で発覚! 「敷金」という名の隠れ借金

母が亡くなり、長女がアパートを相続することになった。 遺産分割協議では、「アパート(建物)は長女へ」「預貯金は長男へ」と決め、手続きを終えた。
数年後、アパートの入居者がまとまって退去することに。 長女は新しい大家さんとして、退去の立ち合いを行い、預かっていた「敷金」を返すことになった。

「そういえば、お母さんが預かった敷金はどこに?」
遺産分割のときにもらった預貯金(長男が相続済み)の通帳を調べても、それらしいお金は見当たらない。どうやら母は、生前に敷金を家賃収入と区別せず、生活費や修繕費として使い込んでしまっていたようだ…。

【相続のここが失敗!】

これが非常によくある、恐ろしい落とし穴です。 相続人が引き継ぐのは、アパートという「モノ」だけではありません。亡くなった大家さん(被相続人といいます)の「賃貸人(ちんたいにん)としての地位」も丸ごと引き継ぎます。

これには、

  1. 家賃をもらう権利(プラス)
  2. 建物を修繕する義務(マイナス)
  3. 入居者から預かった敷金・保証金を返還する債務(マイナス) が含まれます。

「敷金」は大家さんの売上ではありません。あくまで「預かり金」であり、法的には「負債(借金)」です。

この失敗例では、長女は「敷金返還債務」という借金があることを知らずに(あるいは考慮せずに)アパートを相続してしまいました。
その結果、母が使い込んだ敷金を、長女自身の財産から支払わなければならなくなりました。
満室の大規模のアパート・マンションなら、この「隠れ借金」が数百万~数千万円にのぼることもあります。


失敗事例3:家賃収入<(ローン返済+地代)で毎月赤字!

父が亡くなり、会社員の長男が「家賃収入になるなら」と、築15年のアパートを相続した。
しかし、相続手続きを終えて数ヶ月、どうもお金が貯まらない。
よく調べてみると、衝撃の事実が判明した。

1. 父はアパートを建てる際に銀行ローンを組んでおり、まだ1,000万円以上の残債があった。
2. アパートの「建物」は父のものだったが、「土地」は近所の地主さんから借りていた(借地権)。

【相続のここが失敗!】

相続は、プラスの財産だけでなく、ローンのようなマイナスの財産もすべて引き継ぎます。
このケースでは、長男はアパートの所有権と同時に、「ローン返済義務」も相続しました。

さらに、「土地を借りる権利(借地権)」を相続したということは、「土地の持ち主(地主)に毎月地代(ちだい)を支払う義務」も相続したことになります。

【長男の収支(月額)】

• プラス:家賃収入(満室時):30万円
• マイナス:ローン返済:15万円
• マイナス:地代の支払い:10万円
• マイナス:管理会社への委託費・共用部光熱費など:5万円
• 合 計:毎月 0円 (空室が出れば即赤字)

長男は「家賃収入で楽できる」どころか、ローンと地代の支払いに追われ、固定資産税の支払いにも頭を悩ませる「負動産」を相続してしまったのです。


失敗事例4:入居者トラブル発生! 勝手に荷物を捨てて訴えられた

親から古いアパートを引き継いだが、入居者のAさんが3ヶ月前から家賃を滞納している。
連絡もつかず、どうやら「夜逃げ」したようだ。

事例2で紹介したように、賃貸人としての地位も相続することになります。
そうなると、入居者の対応もしなければいけなくなります。

「家賃も払わないし、もういないんだから」と、相続人である新しい大家さんは、鍵屋を呼んでAさんの部屋の鍵を開け、中に残っていた家財道具(古いテレビや布団など)をすべてゴミとして処分してしまった。

数ヶ月後、突然Aさんから連絡が。「勝手に荷物を捨てたな! あのタンスには大事なものが入っていた! 損害賠償を請求する!」と弁護士を通じて内容証明郵便が届いた。

【相続のここが失敗!】

たとえ家賃を滞納していても、たとえ夜逃げ同然の状態でも、法律上、大家さんが勝手に部屋に入り、勝手に荷物を処分することは絶対に許されません。
※これを法律用語で「自力救済(じりききゅうさい)の禁止」といいます。

このケースでは、大家さんは「不法侵入」や「器物損壊」で訴えられ、多額の損害賠償を支払う羽目になる可能性があります。

賃借人(入居者)との「人」の問題も、アパート経営の大きなリスクです。
「夜逃げ」「滞納」のほか、
「入居者の高齢化・認知症(家賃管理ができなくなる)」
「孤独死(特殊清掃や事故物件としての価値下落)」など、

生身の人間を相手にするからこその難しい問題を引き継ぐ覚悟が必要です。
(※滞納者に対応するには、必ず裁判所を通じた「強制執行」という法的手続きが必要です。)


失敗事例5:「遺言書なし」で兄弟が骨肉の争い(遺留分トラブル)

父が亡くなった。相続人は長男と次男。

父は生前、「アパート経営は長男に任せる。預貯金は次男に」と口癖のように言っていた。
しかし、正式な遺言書(ゆいごんしょ)は残していなかった。

相続財産は、アパート(時価8,000万円)と預貯金(2,000万円)。

次男:「遺言書がない以上、法律どおり(法定相続分)に分けるべきだ。全財産1億円の半分、5,000万円をもらう権利が僕にはある。アパートを売ってでも5,000万円を払ってくれ」

長男:「父さんの面倒を見て、アパート経営も手伝ってきたのは俺だ。預貯金2,000万円を渡すから、アパートは俺によこせ」

話し合いは決裂。次男は家庭裁判所に「遺産分割調停(いさんぶんかつちょうてい)」を申し立てた。

【相続のここが失敗!】

「家族仲が良いから大丈夫」「いつもそう言ってたから分かるはず」という油断が、「争族(そうぞく)」の入り口です。
このケースでは、遺言書がなかったため、相続人全員での話し合い(遺産分割協議)が必要になりました。
不動産という「分けにくい財産」があると、協議はほぼ間違いなく難航します。

【もし遺言書があったとしても…】
では、もし父が「アパート(8,000万円)は長男に、預貯金(2,000万円)は次男に」という遺言書を書いていたら、完璧だったでしょうか?

実は、それでもトラブルになる可能性があります。それが「遺留分(いりゅうぶん)」です。

※遺留分とは、簡単に言えば「特定の相続人(子や配偶者)に法律上最低限保障されている、相続財産の取り分」のことです。

このケースでの次男の遺留分は、全財産1億円の1/4、つまり2,500万円です。 しかし、遺言で次男がもらえるのは預貯金2,000万円だけ。 次男は「遺留分が500万円侵害された!」として、長男に対し「遺留分侵害額請求」として、不足分の500万円を「お金で」請求することができます。

(出典:民法(相続法)改正 – 遺留分制度の見直し(法務省), https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00222.html

アパート経営者の相続対策は、「遺言書を書けばOK」ではなく、「遺留分に配慮した遺言書」でなければ意味がないのです。


失敗しないために…弁護士に依頼するメリット

ここまで読んで、「アパートの相続、思ったより怖い…」と感じられたかもしれません。
これらの失敗は、すべて「事前の準備」と「相続発生後の正しい初動」で防ぐことができます。
私たち弁護士は、単に法律の知識を提供するだけでなく、皆さまの「争族」を未然に防ぎ、円満な相続を実現するためのお手伝いをします。

<相続が発生する前(生前対策)>
・遺留分トラブルを回避し、あなたの想いを実現する「遺言書」の作成を、法的なプロとしてフルサポートします。

<相続が発生した後>

  1. 正確な相続財産調査: アパートの価値評価だけでなく、失敗事例2(敷金債務)や失敗事例3(ローン・地代)のような「隠れ借金」や「負債」を徹底的に調査します。
  2. 相続放棄の検討: 調査の結果、「どう考えてもマイナス(赤字)だ」という場合は、「相続放棄」という選択肢もあります。これは相続開始を知った時から原則3ヶ月以内に家庭裁判所への申立てが必要なため、スピードが命です。
    (出典:相続の放棄の申述(裁判所), https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_13/index.html
  3. 遺産分割協議・調停の代理人: あなたの代理人として、他の相続人と冷静かつ法的に交渉します。「共有名義」のような最悪の事態を避け、「アパートは長男がもらう代わりに、次男には現金(代償金)を払う」といった現実的な解決策(代償分割)を導きます。
  4. 賃借人トラブルへの対応: 失敗事例4(夜逃げ・滞納)のような入居者トラブルに対し、法的な手続き(明け渡し交渉や訴訟)を迅速に行い、大家さんとしての経営をサポートします。

アパート・賃貸物件の相続は、「資産」と「負債」と「経営」のすべてを引き継ぐ、非常に複雑な手続きです。
「こんなはずじゃなかった」と後悔する前に、まずは専門家にご相談ください。

蒼生法律事務所は、相続問題、特に不動産が絡む複雑な案件を得意としています。
「ウチの場合はどうなるの?」「何から手を付ければいいか分からない」 そんな漠然としたご不安でも構いません。
まずは、あなたの状況を整理するところから始めましょう。

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