美術品・骨董品収集家(コレクター)の相続
美術品や骨董品を相続する際には、以下のような点に注意する必要があります。
1. 遺産としての評価
美術品(絵画や彫刻など)や骨董品(古美術品や古工芸品など)は、現金や不動産と異なり、価値の評価が難しいため、遺産としての評価や相続税の計算が容易ではありません。
安易に価値のないものと判断してしまい、後日価値の高いものと判明した場合には、遺産分割協議をやり直したり、相続税を追加納税する必要が生じるなど、混乱を招く可能性があります。
そのため、美術商や鑑定士に依頼して、適正な評価を受けることが重要となります。
2. 相続税の申告と納税
美術品や骨董品は、相続財産となり、相続税の対象になります。
価値が基礎控除額(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)を超える場合には、相続税の申告・納付が必要となります。
高額な美術品や骨とう品を相続した場合には、相続税の額が大きくなりますが、直ぐに買い手が見つからず、現金納付が難しくなる可能性があります。
そのため、生前に一部を売却して、相続税を納付する耀の資金を準備しておくことも重要です。
また、複数の美術品・骨董品がある場合には、生前贈与として、相続人に分散しておくことも、相続税対策の一手法として考えられます。
さらに、美術館や公共団体に寄贈することで、税制優遇措置を受けることも可能です。
3. 所有権の確認と分割
美術品・骨董品は、取得時から価値が大きく変動することもあり、生前に分散した場合に、不公平が生じる可能性があります。
また、複数の相続人の共有にすると、意見が分かれた場合には、売却や管理が難しくなります。
そのため、遺言によって、特定の相続人に単独で相続させ、他の相続人には、現預金などの他の遺産で調整することが考えられます。
生前に売却してしまって、現金化するという方法も考えられます。
後述する維持・管理の問題もありますので、生前から家族間で話し合い、方針を決めておくことが重要となります。
4. 保管・管理コスト
美術品や骨董品は、温度や湿度など、適切な保管・管理が必要となり、火災・盗難に備えて保険契約を締結するなど、費用の負担が生じます。
そのため、相続人において、保管・管理が難しい場合や、承継を希望しない場合には、生前に売却することも検討するべきでしょう。美術館や専門機関に寄託・寄贈するという方法も考えられます。
知的財産権保有者の相続
知的財産権(特許権、著作権、商標権、意匠権など)を保有している方が亡くなった場合、その権利は、他の財産と同様に、相続の対象となります。
もっとも、知的財産権は、一般的な財産とは異なる特性を持つため、相続の際にはそれらの特性に応じた注意が必要です。
1. 知的財産権の種類ごとの扱い
知的財産権はそれぞれ異なるルールが適用されるため、権利ごとに確認が必要です。
①特許権・商標権・意匠権
企業の研究開発部門に所属している方や大学などの研究施設に勤務している方、商業デザインを業としている方などは、特許権や商標権を保有している可能性があります。
特許権・商標権・意匠権は、特許庁で登録されることによって権利主張ができるものです。
特許権・商標意見などの登録されている権利は、相続の対象となり、相続人が継承することができます。
ただし、特許庁への名義変更手続き(権利者の変更届出)が必要ですので、忘れないように注意しましょう。
②著作権
ミュージシャンや小説家、脚本家、画家、陶芸家だけでなく、コンピュータプログラミングを業としている方などは、著作権を保有しているものと思われます。
過去の作品であっても、繰り返し出版や販売、配信をされるものについては、印税が発生する可能性がありますので、大きな価値を有することもあります。
著作権のうち、財産権(複製権、上演権、上映権、公衆送信権など)とされるものについては、相続の対象となり、相続人が承継することができます。
もっとも、著作者人格権(公表権・氏名表示権・同一性保持権)は、著作者本人だけが保有できる権利とされているため、相続することはできませんので、注意が必要です。
③営業秘密・ノウハウ
特許庁で登録されるものではなく、また、ないが、会社や事業の継承に関わる場合があります。
2. 知的財産権の経済的価値の評価
遺産分割協議や相続税の申告の際には、相続財産として評価する必要がありますが、以下の要素などを考慮する必要があり、知的財産権の経済的価値を算定するのは容易ではありません。
A知的財産権の残存期間
B収益性(ライセンス契約の有無、ロイヤリティの金額など)
C市場価値(類似の知的財産権の取引価格など)
そのため、知的財産権の経済的価値の評価については、専門家(弁護士・弁理士・税理士・鑑定士)に相談することが望ましいでしょう。
3. 相続税対策
知的財産権は、他の財産と同様に、相続財産に含まれるため、相続税が課されることになります。
著作権や特許権の評価額が高いと、相続税が高額になる可能性があるため、相続税の負担を軽減するために、生前に法人化(会社を設立して権利を移転する)や第三者への適正価格での売却、相続人への生前贈与などを検討する必要があるかもしれません。
4. 相続人間のトラブル防止
知的財産権は、共有となるとライセンス契約などの際に意見が分かれることもあり、誰か一人が相続しようとすると経済的評価が難しいこともあり、相続人間で争いが起こりやすいという側面があります。
また、知的財産権が会社経営に関わる場合には、円滑な事業承継の観点からも、対策を検討する必要があります。
そのため、遺言書を作成し、事業や法人を引き継ぐ相続人に承継させるなど、意思を明確にしておくことが考えられます。
また、法人に権利を移転したり、信託契約を活用するなど、知的財産権を分散せずに管理する方法も検討するべきでしょう。
5. まとめ
このように、知的財産権は経済的価値の評価が難しく、また、会社の経営戦略に影響を及ぼすこともあるため、相続時にトラブルが発生しやすい財産と言えます。
そのため、事前に知的財産権の整理を行い、遺言書の作成や権利を移転することで、紛争を予防することを検討しましょう。
また、相続税対策のために、専門家(弁護士・弁理士・税理士)に相談することも検討しましょう。