こんにちは。蒼生(そうせい)法律事務所、代表弁護士の平野潤です。
最近、ご相談者様から「親が亡くなって、実家が空き家になってしまったのですが、どうしたらいいでしょうか?」というお話を伺う機会が非常に増えています。
思い出の詰まったご実家。しかし、誰も住む予定がない場合、その空き家はあっという間に悩みの種になってしまうことがあります。固定資産税や維持管理の負担、倒壊などのリスク、そして何より、相続人間で意見がまとまらない…。「負の遺産」、いわゆる「負動産」になってしまう前に、きちんと向き合うことが大切です。
この記事では、相続問題に詳しい弁護士の視点から、「実家の空き家」を相続した際に考えられる選択肢と、それぞれのメリット・デメリット、そして思わぬ落とし穴について、初心者の方にも分かりやすく解説していきます。
なぜ「実家の空き家」が問題になるの?放置するリスクとは
「誰も住まないけれど、思い出があるし、すぐに解体や売却をするのは忍びない…」 そのお気持ち、とてもよく分かります。しかし、空き家をそのまま放置してしまうことには、想像以上のリスクが伴います。
経済的なリスク(お金の問題)
- 固定資産税の負担: 空き家であっても、所有している限り毎年固定資産税や都市計画税がかかります。これは、土地や建物といった不動産を持っている人に課される税金のことですね。
- 維持管理費用: 雑草が伸び放題になれば、近隣から苦情が来るかもしれません。定期的な草むしりや庭木の手入れ、建物の換気や簡単な修繕など、空き家を維持するためには意外と手間とお金がかかります。光熱費や火災保険料なども必要になるでしょう。
- 解体費用: もし将来的に建物を解体することになれば、数百万円単位の解体費用が発生する可能性もあります。
法的なリスク(法律の問題)
特に注意したいのが、法的なリスクです。 管理が不十分なまま放置され、倒壊の危険があったり、衛生上・景観上の問題があったりする空き家は、「特定空家等」に指定されてしまう可能性があります。
特定空家等に指定されると、自治体から改善のための助言や指導、勧告、命令が出されます。それでも改善されない場合、最終的には行政が強制的に解体などを行う「行政代執行」が行われ、その費用を請求されることもあります。さらに、勧告を受けると固定資産税の優遇措置が適用されなくなり、税額が最大で6倍に跳ね上がってしまうという、非常に重いペナルティが待っています。
また、万が一、管理不備が原因で空き家の瓦が飛んで隣家を傷つけたり、ブロック塀が倒れて通行人に怪我をさせてしまったりした場合は、所有者として損害賠償責任(民法717条、工作物責任)を問われる可能性も十分にあります。
さらに、空き家のまま放置されていることが周囲に知れ渡った場合には、ゴミを不法に投棄されたり、見知らぬ第三者に不法に占有、使用されたりするおそれもあります。
出典:空家等対策の推進に関する特別措置法関連情報(国土交通省)
このように、空き家を放置することは、経済的にも法的にも大きなリスクを抱え込むことに他ならないのです。
どうする?「実家の空き家」3つの選択肢
では、具体的にどのような選択肢があるのでしょうか。大きく分けると、以下の3つが考えられます。
選択肢①:相続して「活用」する
ご実家を財産として活かす方法です。いくつかのパターンが考えられます。
- 自分で住む、または親族に住んでもらう: 最もシンプルな活用法です。ただし、大昔に建築された建物であれば、リフォームが必要な場合も多く、その費用を誰が負担するのか、相続人間で話し合っておく必要があります。
- 賃貸に出す: 家賃収入が期待できます。ただし、こちらも入居者が見つかるようにリフォームが必要になることがほとんどです。また、入居者とのトラブルや建物の管理といった手間も発生します。
- 更地にして駐車場などで貸す: 建物を解体して、土地を駐車場や資材置き場として貸し出す方法です。初期費用として解体費用がかかりますが、管理の手間は比較的少ないでしょう。ただし、建物を解体すると土地の固定資産税の優遇がなくなるため、税負担が増える点には注意が必要です。
メリット | ・家賃収入など、資産として収益を生む可能性がある ・思い出の土地や建物を手放さずに済む |
デメリット | ・リフォーム費用や解体費用などの初期投資が必要 ・管理の手間やコストがかかり続ける ・活用方法について、相続人全員の意見が一致しないと進められない |
選択肢②:相続して「売却」する
空き家を売却し、得られたお金を相続人で分ける(換価分割)という方法です。最も現実的で、多くの方が選びたいと思われる選択肢でしょう。
メリット | ・まとまった現金が手に入る ・固定資産税や維持管理の負担から完全に解放される ・相続人間で公平に分割しやすい |
デメリット | ・思い出の詰まった実家がなくなってしまう ・買い手が見つかるまで時間がかかる可能性がある ・相続人全員の同意が必要という大きなハードルがある |
ここで注意したいのが、不動産が共有状態であるケースです。 相続手続きで遺産分割協議をしないまま法定相続分で登記をすると、その不動産は相続人全員の共有名義になります。共有名義の不動産を売却するには、共有者全員の合意が必要です。一人でも「売りたくない」という人がいれば、売却はできません。これが、後々大きなトラブルの原因になるのです。
選択肢③:「相続放棄」する
もし、ご実家以外にも借金などのマイナスの財産が多い場合や、どうしても空き家の管理に関わりたくない、という場合には「相続放棄」という選択肢もあります。
相続放棄とは、家庭裁判所に申述することで、プラスの財産(預貯金や不動産)もマイナスの財産(借金など)も併せて、一切の遺産を相続しないことにする手続きです。
メリット | ・借金を引き継がなくて済む ・空き家の管理義務や固定資産税の支払い義務から解放される ・相続人間の協議や揉め事に関わらなくて済む |
デメリット・注意点 | ・相続開始を知った時から3ヶ月以内に手続きをする必要がある ・一度相続放棄をすると、絶対に撤回できない ・預貯金など、他のプラスの財産も一切相続できなくなる |
【重要】なお、相続放棄をしても、次の相続人が決まって財産の管理を始めるまでは、元の相続人に管理責任が残る場合があります。つまり、「放棄したから、あとは知らない」とはならない可能性がある、という落とし穴があるのです。
どの選択肢がベストかは、ご実家の状況、他の相続財産の状況、そして相続人の方々のお考えによって全く異なります。
「意見が一致しない!」よくある相続トラブルと弁護士の役割
ここまで選択肢を見てきましたが、最も難しい問題は、相続人間で方針が決まらない、意見が一致しないことです。
このような感情的な対立や、法律的な主張が絡み合うと、話し合いは一向に進みません。 話し合いでまとまらない場合、家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立てることになります。
「調停」とは、裁判所において、調停委員という中立公正な第三者を交えて、解決を目指す手続きです。しかし、これもあくまで話し合いなので、全員が合意しなければ成立しません。調停が不成立になると、最終的には「審判」といって、裁判官が遺産の分け方を決定することになります。
このような法的手続きは、ご自身で進めるには精神的にも時間的にも大きな負担がかかります。
空き家相続で悩んだら、弁護士に相談するメリット
「何から手をつければいいのか分からない」「他の相続人と話がこじれてしまった」 そんな時こそ、私たち弁護士の出番です。相続問題で弁護士に依頼するメリットは、たくさんあります。
相続問題は、時間が経てば経つほど、新たな相続が発生するなどして権利関係が複雑になり、解決が難しくなってしまいます。「実家の空き家」問題も例外ではありません。
まとめ:まずはお気軽にご相談ください
「実家の空き家」をどうするかは、単なる手続きの問題ではなく、ご家族の想いや将来にも関わる大切な問題です。だからこそ、一人で、あるいはご親族だけで抱え込まず、専門家の力を借りることを検討してみてはいかがでしょうか。
私たち蒼生法律事務所は、これまで多くの相続案件、特に不動産が絡む複雑な案件を解決に導いてまいりました。法律の専門家として最適な解決策をご提案するのはもちろんのこと、皆様のお気持ちに寄り添い、精神的なご負担を少しでも軽くするお手伝いをしたいと考えています。
「何から始めればいいかわからない」「とりあえず話だけ聞いてほしい」 そんな段階でも全く問題ありません。大切なのは、問題を先送りにせず、第一歩を踏み出すことです。
蒼生法律事務所では、相続に関する初回のご相談は無料でお受けしています。まずはお気軽にお問い合わせいただき、あなたの状況やお悩みをお聞かせください。ご連絡を心よりお待ちしております。

2004年の弁護士登録以降、個人・法人問わず幅広い事件を担当し、クライアントにとっての重大事には誠実かつ丁寧に寄り添う。命運に配慮し、最善策を模索。豊富な実績と十分なコミュニケーションで、敷居の高さを感じさせない弁護士像を追求してきた。1978年大阪府出身、京都大学法学部卒業。2011年に独立。不動産・労務・商事・民事・破産・家事など多様な分野を扱い、2024年6月に蒼生法律事務所へ合流。相続・遺言