皆さん、こんにちは。 蒼生(そうせい)法律事務所、代表弁護士の平野 潤です。
「父の遺産について兄弟で話し合いたいのに、何十年も前に家出した弟と連絡が取れない…」
「亡くなった夫には前妻との間に子供がいるらしいが、会ったこともなく、どこに住んでいるかも分からない」
「相続手続きを進めたいけれど、相続人の一人が行方不明で、全ての作業が止まってしまった」
遺産相続において、このような「相続人が見つからない」という問題は、手続き全体を頓挫させてしまう、非常に深刻な壁となります。
なぜなら、遺産相続のルールには「相続人全員の合意がなければ、原則として何も進められない」という大前提があるからです。
今回は、相続問題の専門家である弁護士が、この最も重要で、時に最も困難な「相続人調査」について、具体的な調査方法から、複雑なケースの対処法、そして知っておくべき注意点まで、詳しく解説していきます。
なぜ「全員」の特定が必要?相続人調査の絶対的な重要性
そもそも、なぜ相続人「全員」を血眼になって探さなければならないのでしょうか。
それは、法律で定められた重要な手続きが、相続人全員の参加を要求しているからです。
つまり、たった一人でも相続人が欠けていると、遺産は「塩漬け」状態になり、誰も手を付けられないまま時間だけが過ぎていく…という事態に陥ってしまうのです。
相続人調査の基本|壮大な「戸籍を辿る旅」の始め方
では、具体的にどうやって相続人を探すのでしょうか。その全ての基本となるのが、日本の「戸籍(こせき)」制度です。
戸籍とは、国民一人ひとりの出生、親子関係、養子縁組、婚姻、離婚、死亡といった身分関係を記録・証明する、非常に強力な公的データベースです。この戸籍を過去に遡って辿っていくことで、法律上の相続人を確定させることができます。
調査の具体的なステップ
1.【スタート】被相続人の「最後の戸籍謄本」を取得
まず、亡くなった方(法律用語で被相続人(ひそうぞくにん)と言います)の最後の本籍地の役所で、「死亡事項の記載のある戸籍謄本」を取得します。
2.【核心部分】「出生まで」戸籍を遡る
次に、取得した戸籍に書かれている「従前戸籍(ひとつ前の戸籍)」の情報を元に、さらに古い戸籍を請求します。
これを繰り返し、被相続人の「出生から死亡まで」の一連の戸籍謄本類(戸籍謄本、除籍謄本、原戸籍謄本)をすべて揃えます。
なぜ「出生まで」遡る必要があるかというと、その過程で、ご家族も知らなかった離婚歴や、認知した子の存在などが判明することがあるからです。
3.【確定作業】判明した相続人の「現在の戸籍」を取得
被相続人の戸籍調査で判明した子供や親、兄弟姉妹(これら相続する権利のある人を相続人(そうぞくにん)と言います)が、現在も生存しているかを確認するため、その人たちの「現在の戸籍謄本」を取得します。
4.【派生調査】代襲相続(だいしゅうそうぞく)の確認
もし、相続人であるはずの子供や兄弟姉妹が、被相続人より先に亡くなっていた場合、その人の子供(被相続人から見て孫や甥・姪)が代わりに相続人になります。
これを代襲相続と言います。その場合は、亡くなっていた相続人の「出生から死亡まで」の戸籍をさらに調査し、代襲相続人を特定します。
調査に必要なもの(資格・書類・費用)
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戸籍謄本:1通 450円(令和7年8月1日時点)
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除籍謄本・原戸籍謄本:1通 750円(令和7年8月1日時点)
なお、本籍地が遠方の場合は、郵送での請求も可能ですが、その往復の郵便料金や、手数料を定額小為替で支払う手間がかかります。
所在不明の相続人はどう見つける?「戸籍の附票」という切り札
戸籍を辿って「Aさんが相続人だ」と分かっても、その戸籍に書かれているのは「本籍地」だけで、「現住所」は分かりません。そこで登場するのが「戸籍の附票(こせきのふひょう)」です。
これは、その人がその本籍地にいた間の、住所の移転履歴が記録された書類です。
戸籍の附票を取得すれば、現在の住民票上の住所が判明し、手紙を送るなどしてコンタクトを取るための足がかりが得られます。
この戸籍の附票については、2019年6月20日の法改正までは、保存期間が原則5年となっていました。
そのため、法改正の時点で既に5年の保存期間を過ぎてしまったものについては、記録が役所で廃棄されてしまい、追跡が途絶えてしまうリスクもあります。
【ケース別】こんな時どうする?困難な相続人調査の突破法
ここからは、ご相談で特に多い、複雑なケースの対処法を見ていきましょう。
「親子の縁を切った!」と感情的に勘当しても、法律上の親子関係や相続権は消滅しません。
何十年音信不通でも、戸籍を辿るという基本の調査方法で、法的な相続人として探し出す必要があります。
被相続人の「出生から死亡まで」の戸籍には、全ての婚姻歴・離婚歴が記録されています。
そのため、前妻(前夫)との間に生まれた子供も、相続人として必ず判明します。
婚姻関係にない男女の間に生まれた子(婚外子)は、父親である被相続人が法律上の手続きである「認知」をしていれば、相続人となります。
認知の事実は、父親(被相続人)の戸籍に記載されるため、戸籍調査の過程で発覚します。
この二つは全く違います。
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養子: 被相続人と「養子縁組」をしていれば、実の子と全く同じ権利を持つ相続人です。戸籍にもその旨が記載されます。
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里子: 単に子供を預かって面倒を見ていただけの関係で、養子縁-組をしていなければ、法律上の親子関係はなく、相続権もありません。
被相続人に子供がおらず、両親も既に亡くなっている場合、兄弟姉妹が相続人となります。
その兄弟姉妹も亡くなっている場合は、その子供である甥・姪が代襲相続します。
面識のない甥や姪が、全国に散らばっているケースも珍しくなく、調査範囲が一気に広がり、手続きが非常に煩雑になります。
最も調査が難航する可能性が高いケースです。
戸籍の附票で海外へ転出した事実は分かっても、その先の住所は追えません。
日本国籍を保持していれば、現地の日本大使館・領事館を通じて調査の糸口が見つかることもありますが、限界があります。
このような場合は、弁護士など専門家の国際的なネットワークや調査ノウハウが不可欠となります。
要注意!相続人調査の「落とし穴」と「よくある失敗」
相続人調査は、やり方を間違えると大きなリスクや無駄を生みます。
よくある勘違い:「行方不明者は無視して進めても大丈夫だろう」
絶対にダメです。
先述の通り、行方不明者を除外した遺産分割協議は無効です。
後からその人が現れた場合、全ての手続きをやり直すことになり、深刻なトラブルに発展します。
よくある失敗:「戸籍集めに手間取り、大事な期限を過ぎてしまった」
相続には「相続放棄(プラスもマイナスの財産も一切相続しない手続き)」の3ヶ月という短い期限や、「相続税申告・納付」の10ヶ月という期限があります。
複雑な相続人調査に時間を取られ、これらの重要な選択の機会を失ってしまうケースが後を絶ちません。
相続人調査を弁護士に依頼する3つの大きなメリット
「自分でやるのは、どうにも難しそうだ…」
「仕事が忙しくて手が回らない」
「安心できる専門家に任せたい」
そう感じられたなら、ぜひ私たち専門家にご相談ください。弁護士に依頼することで、得られるメリットは計り知れません。
メリット1:迅速・正確な調査力【職務上請求】
弁護士は、受任した事件の処理に必要な範囲で、戸籍や住民票などを職務上の権限で請求できる「職務上請求」という制度を利用できます。
これにより、ご自身で各地の役所に郵送請求などを繰り返すよりも、格段にスピーディーかつ正確に戸籍を収集することが可能です。
複雑な戸籍の読み解きも、もちろんお任せください。
メリット2:調査後の相続手続きまでワンストップで対応
相続人調査は、あくまでスタートラインです。
大変な思いをして全員を確定させた後も、財産調査、遺産分割協議、協議がまとまらない場合の調停・審判、相続放棄の手続きなど、多くのハードルが待ち構えています。
弁護士にご依頼いただければ、これらの一連の手続きを全て一貫してサポートし、あなたの代理人として交渉や手続きを進めることができます。
会ったこともない相続人との連絡といった、精神的に負担の大きい役割も代行します。
メリット3:精神的・時間的負担からの解放
何よりのメリットは、この複雑で骨の折れる作業から解放されることです。
大切な方を亡くし、心身ともにお疲れの時に、不慣れな手続きに追われる必要はありません。
専門家に任せることで生まれた心の余裕を、どうか故人を偲び、ご自身の生活を立て直すための大切な時間にお使いください。
まとめ:相続は時間との勝負。不安を感じたら、まずご相談を
相続人調査は、全ての相続手続きの土台となる、避けては通れない重要なプロセスです。
そして、その調査は時に、想像以上に複雑で、多くの時間と労力を要します。
もし、この記事を読んで「自分のケースは複雑かもしれない」「期限に間に合うか心配だ」「知らない親族と連絡を取るのが億劫だ」と少しでも思われたなら、どうか一人で抱え込まず、手遅れになる前に専門家にご相談ください。
私たち蒼生法律事務所は、相続人調査をはじめ、遺産分割、遺言、遺留分など、あらゆる相続問題の解決に豊富な実績があります。
初回のご相談は無料です。
正式に依頼するかどうかは、私たちの話を聞いてから決めていただいて構いません。まずはあなたの状況を整理し、これから何をすべきか、最善の道筋を一緒に見つけましょう。
どうぞ、お気軽にお問い合わせください。
あなたとご家族が、一日も早く相続という大きな不安から解放され、穏やかな日々を取り戻せるよう、私たちが全力でサポートいたします。

2004年の弁護士登録以降、個人・法人問わず幅広い事件を担当し、クライアントにとっての重大事には誠実かつ丁寧に寄り添う。命運に配慮し、最善策を模索。豊富な実績と十分なコミュニケーションで、敷居の高さを感じさせない弁護士像を追求してきた。1978年大阪府出身、京都大学法学部卒業。2011年に独立。不動産・労務・商事・民事・破産・家事など多様な分野を扱い、2024年6月に蒼生法律事務所へ合流。相続・遺言