【弁護士が解説Q&A】相続放棄の落とし穴と注意点|「知らなかった」では済まされない失敗例


親が亡くなり、遺品を整理していると、思いがけず多額の借金の督促状が見つかった。――このような時、多くの方が検討するのが「相続放棄」です。
相続放棄は、借金などのマイナスの財産を引き継がなくて済む、非常に重要な制度です。しかし、手続きが簡単そうに見えるため、ご自身で進めた結果、思わぬ落とし穴にはまり、「放棄できるはずだったのに、借金をすべて背負うことになった」という悲惨なケースも少なくありません。
「知らなかった」では済まされない、相続放棄の落とし穴。この記事では、相続放棄に関するよくあるご質問にQ&A形式でお答えし、致命的な失敗を避けるためのポイントと、専門家である弁護士に依頼するメリットを詳しく解説します。

Q.そもそも「相続放棄」とは、どのような手続きですか?~他の相続人に口頭で「相続放棄します」と言うだけでいいですか?


A.相続放棄は家庭裁判所で行う法的な手続きです。口約束や念書では成立しません。
相続放棄とは、「被相続人(亡くなった方)の預貯金や不動産といったプラスの財産も、借金などのマイナスの財産も、その一切を相続しない」という意思表示を、家庭裁判所に対して行う法的な手続きです。
よくある誤解が、「兄弟間の話し合いで『私は財産を何もいらないから』と伝え、念書を書いたから相続放棄は済んだ」というものです。しかし、このような当事者間の合意は、法律上の「相続放棄」にはあたりません。債権者(お金を貸している側)に対して「私は相続を放棄した」と主張することはできず、借金の返済義務を免れることはできないのです。
法的に有効な相続放棄をするためには、必ず家庭裁判所に「相続放棄の申述」という申し立てを行う必要があります。
そして、この手続きには厳格な期限が定められています。
相続放棄の申述は、民法により、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内にしなければならないと定められています。
(出典:裁判所ウェブサイト相続の放棄の申述 | 裁判所)
この「3ヶ月」という期間を「熟慮期間」と呼びます。この期間内に、財産を相続するのか、放棄するのかを決め、手続きを完了させなければならないのが原則です。

Q.相続放棄の手続きは、手間や時間がかかると聞きました。


A.はい。特に戸籍謄本の収集は非常に煩雑で、時間がかかります。
相続放棄の申述自体は、ご自身で行うことも可能です。しかし、裁判所に提出する必要書類の収集は、多くの方が想像する以上に手間と時間がかかります。

【主な必要書類の例】

  • 相続放棄の申述書
  • 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
  • 被相続人の住民票除票または戸籍附票
  • 申述人(放棄する方)の戸籍謄本

特に大変なのが、「被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本」の収集です。人は結婚や転籍などで本籍地を移していることが多く、その場合、過去の本籍地があったすべての市区町村役場に、郵送などで戸籍謄本を請求しなければなりません。古い戸籍は手書きで解読が難しく、一連の戸籍を揃えるだけで1ヶ月以上かかってしまうことも珍しくありません。特に、被相続人が高齢であれば、兄弟姉妹が多かったり、養子縁組をしていたりというケースもあり、非常に複雑となります。
仕事や家事などで忙しい中、平日の日中に役所と何度もやり取りをするのは大きな負担です。そして、この書類収集に手間取っている間に、前述の「3ヶ月」の期限が迫ってくるというプレッシャーに晒されることになります。

Q.相続放棄でよくある失敗や「落とし穴」を教えてください。


最も怖いのは、意図せず「相続を承認した」とみなされてしまうことです。
相続放棄には、知らずに行うと取り返しがつかなくなる、いくつかの重大な落とし穴があります。

落とし穴1:相続財産に手をつけ、「単純承認」とみなされる

相続放棄を検討している期間に、故人の財産を処分したり、受け取ったりすると、法律上「相続する意思がある(単純承認した)」とみなされ、その後、相続放棄が認められなくなる可能性があります。

【単純承認とみなされる可能性のある行為の例】

  • 故人の預貯金を引き出して、葬儀費用以外の支払(例:借金の返済)に充てた
  • 故人名義の不動産を売却したり、賃貸借契約を解除した
  • 故人が所有していた自動車を自分の名義に変更した
  • 形見分けとして、骨董品や宝石など、財産的価値のあるものを受け取った

「これは大丈夫だろう」「ちょっと借りるだけ」という安易な判断が、致命的な結果を招きます。いったん単純承認が成立すると、後から多額の借金が発覚しても、原則として相続放棄はできず、その借金全額を支払う義務を負うことになります。

落とし穴2:次の順位の相続人に借金が引き継がれる

あなたが相続放棄をすると、相続権は次の順位の相続人に移る、というルールを理解しておく必要があります。

【相続順位】

  • 第1順位:子(子が亡くなっていれば孫)
  • 第2順位:親(親が亡くなっていれば祖父母)
  • 第3順位:兄弟姉妹(兄弟姉妹が亡くなっていれば甥・姪)

例えば、借金を残して亡くなった父の相続で、子の全員が相続放棄をしたとします。それで終わりではありません。相続権は第2順位である祖父母(父の親)に移ります。祖父母も亡くなっていれば、第3順位である父の兄弟姉妹(本人から見れば叔父・叔母)に相続権が移ります。
このことを知らずに自分だけが手続きを済ませて安心していると、ある日突然、叔父や叔母のもとに債権者から督促状が届き、「なぜ教えてくれなかったんだ」と深刻な親族トラブルに発展するケースが後を絶ちません。

落とし穴3:放棄後の「財産管理義務」を知らない


相続放棄をしても、それで全ての責任から解放されるわけではありません。特に問題となるのが不動産(空き家など)です。
2023年4月に改正された民法では、以下の通り、相続放棄をした人にも一定の管理義務が残る可能性が明記されました。

「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。」
(出典:e-Gov法令検索 民法第940条第1項 民法|条文|法令リード

簡単に言えば、「相続放棄をしても、次に管理する人が決まるまでは、その財産(特に空き家など)を適切に管理しなさい」ということです。もし管理を怠り、空き家が倒壊するなどして隣家や通行人に損害を与えた場合には、損害賠償責任を問われるリスクがあるのです。

Q.相続放棄の手続きを、弁護士に依頼するメリットは何ですか?


致命的な失敗を防ぎ、時間と精神的な負担を大幅に軽減できることが最大のメリットです。
相続放棄の数々の落とし穴を避け、安全・確実に手続きを完了させるために、弁護士に依頼することには大きなメリットがあります。

メリット1:時間と手間の一切から解放される

非常に煩雑で時間のかかる戸籍謄本等の収集から、裁判所に提出する申述書の作成・提出まで、すべての手続きを弁護士が代行します。あなたは役所や裁判所とやり取りする必要がなく、本業や日常生活に専念できます。

メリット2:「単純承認」などの致命的なミスを未然に防げる

弁護士は、何をしてはいけないのか(単純承認とみなされる行為)を具体的にアドバイスします。財産の状況を正確に把握した上で、「これは触ってはいけない」「この支払いは問題ない」といった法的な判断を示すため、あなたは安心して手続きが終わるのを待つことができます。

メリット3:3ヶ月の期限を過ぎていても、放棄が認められる可能性がある

「死後3ヶ月以上経ってから借金の存在を知った」というケースでも、諦める必要はありません。弁護士は、期限を超えても仕方がなかった事情を法的に構成し、裁判所に対して説得力のある主張を行います。個人で手続きするよりも、相続放棄が受理される可能性を大きく高めることができます。

メリット4:次の相続人や債権者への対応も任せられる

相続放棄によって影響が及ぶ他の親族への連絡や説明、債権者からの厳しい督促への対応も、すべて弁護士が窓口となって行います。矢面に立たされる精神的ストレスから解放され、冷静に問題を解決へと導きます。

メリット5:放棄後の問題まで見据えたサポートが受けられる

相続放棄後の不動産の管理問題など、派生する複雑な法的問題についても、ワンストップで相談し、適切な解決策(相続財産清算人の選任申立てなど)のサポートを受けることができます。

まとめ:その手続き、本当に大丈夫ですか?


相続放棄は、「何もしない」という消極的な行為ではなく、「家庭裁判所で行う積極的な法律行為」です。そして、一度失敗すれば、原則としてやり直しはききません。
もし、あなたが今、相続放棄を少しでも検討しているのであれば、ご自身で手続きを進める前に、ぜひ一度、私たち蒼生法律事務所にご相談ください。致命的な失敗を犯し、多額の借金を背負ってしまうリスクを回避すること。それが、結果的にあなたの時間、費用、そしてなによりも平穏な生活を守るための、最も確実な方法です。
初回のご相談は無料です。まずはお気軽にお問い合わせください。