会社経営者のための「賢い」相続対策ガイド|会社を未来につなげ、家族を守るために

会社を経営されている皆様、そしてそのご家族の皆様、こんにちは。

「自分がもしもの時、会社はどうなるんだろう?」「社長だった父の相続、普通の家庭とは手続きが違うの?」そんな不安を感じてはいませんか?

会社経営者の相続は、個人の貯金や自宅の話だけでは済みません。「会社のオーナーとしての顔」と「一人の親としての顔」の両面から準備をしないと、せっかく育てた事業が空中分解したり、家族が泥沼の争いに巻き込まれたりするリスクがあります。

この記事では、会社経営者ならではの相続のポイントを、初心者の方にも分かりやすく解説します。

1. 会社経営者の相続が「特別」な理由

普通の相続は「誰がどの財産をもらうか」が中心ですが、経営者の場合は「経営権(株式)」と「事業用資産」が加わります。

相続財産に含まれる主なもの

個人の資産

預貯金、自宅、車など

会社の株式

会社のオーナーとしての権利

事業用資産

個人名義で会社に貸している土地や建物、特許権など

会社への貸付・借入

社長が会社に貸しているお金(役員借入金)など

これらが複雑に絡み合うため、正確な評価と適切な分け方が欠かせません。

2. 経営者が元気なうちに「覚悟」して準備すべき4つのこと

「まだまだ先の話だ」と思わずに、自分が元気に采配を振るえる「今」だからこそできる対策があります。

事業承継のロードマップを作る

事業承継とは、会社を後継者に引き継ぐことです。単に「息子に任せる」と決めるだけでなく、後継者の育成や組織の再編、株式の移動などを計画的に進める必要があります。

株式の引き継ぎ方を決める(経営権の確保)

中小企業の多くは「譲渡制限株式(売買に会社の許可が必要な株)」を発行していますが、相続の場合は会社の許可なく相続人が引き継げてしまいます。

【用語解説】譲渡制限株式

会社にとって好ましくない人が株主にならないよう、売買に制限をかけている株式のこと。しかし、相続は「売買」ではないため、この制限が効きません。

後継者が経営権を安定させるためには、少なくとも過半数(50%超)の株式を集中して持たせることが重要です。

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相続税の支払い資金を準備する

会社の業績が良いほど、株式の評価額は高くなり、多額の相続税がかかることがあります。

生前贈与

少しずつ株式を後継者に譲り、将来の税負担を抑えます。

生命保険の活用

相続税を支払うための現金を「保険金」として準備します。

3. 相続人が直面する「3つの落とし穴」

社長が亡くなった後、残された家族が困りやすいポイントをまとめました。

落とし穴1:株式の評価で揉める

「兄さんが継ぐ会社の株は、実は1億円の価値があるはずだ!」と、会社に関わらない兄弟から主張されることがあります。株式の評価は非常に複雑なので、専門家による客観的な鑑定が必須です。

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落とし穴2:会社への貸付金が「遺産」になる

社長が会社を助けるために自分のお金を貸している場合(役員貸付け)、それは「会社に対する債権」として相続財産・遺産に含まれます。

具体例: 帳簿上は「社長(父)から会社へ3,000万円の貸付」となっている場合、会社に返すお金がなくても、相続税の対象になってしまいます。

落とし穴3:連絡の取れない相続人がいる

経営者に離婚歴がある場合、前妻との間にお子さんがいるかもしれません。相続人全員の同意がないと遺産分割(名義変更など)は進められないため、音信不通の相続人がいると経営がストップする恐れがあります。

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4. スムーズな相続のための「対策比較表」

状況に合わせて、どのような手段を検討すべきか整理しました。

遺言書の作成

内容:誰にどの株をあげるか指定する

メリット:争いを未然に防ぎ、後継者を守れる

注意点:他の相続人の「遺留分」を侵害しないよう配慮が必要

生前贈与

内容:生きている間に株を譲る

メリット:早くから経営権を移譲でき、節税にもなる

注意点:贈与税がかかる場合があるため計算が必要

生命保険

内容:納税資金を準備する

メリット:確実に現金を残せる

注意点:加入時の年齢や健康状態に左右される

M&A(売却)

内容:第三者に会社を譲る

メリット:従業員の雇用を守り、創業者利益も得られる

注意点:買い手を見つけるのに時間がかかる、条件調整が必要

会社経営者のための相続・事業承継【お悩み別 Q&A】

お客様から多く寄せられるご質問をご紹介します。

自分が死んだら、会社はどうなってしまうのか漠然と不安です。何から考え、準備すれば良いのでしょうか?

まずは「誰に、何を、どうやって」引き継ぐのか、「事業承承継計画」を立てることから始めましょう。
そのご不安、全ての経営者が抱えるものです。そして、その不安を解消する第一歩が、現状を把握し、未来への道筋を描く「事業承継計画」の策定です。
現状把握:会社の財務状況、自社株の評価額、ご自身の個人資産などを「見える化」します。
後継者の選定:親族、役員・従業員、あるいは第三者(M&A)など、誰に会社を託すのかを検討します。
承継計画の策定:いつ、どのような手順で株式や事業用資産を後継者に移転していくのか、具体的なスケジュールと方法を決めます。
事業承継には、一般的に5年から10年かかると言われています。まだ元気で、判断力も体力もある「今」こそ、計画を始める絶好のタイミングです。私たち弁護士は、その計画策定の段階から、法的なリスクを洗い出し、最適な道筋を描く「参謀」として伴走します。
出典: 事業承継ガイドライン(中小企業庁)

会社を継がせたい長男に、どうすれば私の死後、確実に全株式を渡せますか?

「長男に全株式を相続させる」という内容の「公正証書遺言」を作成することが、最も確実で強力な方法です。
これが事業承継の鉄則です。会社の経営権は、株式の議決権によって決まります。もしあなたが遺言書なしで亡くなると、会社の株式も法定相続分に応じて、会社を継がない他のご家族(例えば、配偶者や他のご兄弟)にも分散してしまいます。
その結果、後継者である長男様の経営権が不安定になり、会社の重要な意思決定(役員選任、設備投資など)がスムーズに行えなくなる「お家騒動」に発展しかねません。
公正証書遺言であなたの意思を明確に残すこと。それが、後継者と会社の未来を守る、経営者としての最後の、そして最大の仕事です。
出典: 遺言(日本公証人連合会)

うちの会社の株式は、定款で「譲渡制限株式」になっています。相続で何か問題はありますか?

相続による承継自体は問題ありません。しかし、相続人が株式を第三者に売却しようとする際に、トラブルになる可能性があります。
多くの中小企業では、好ましくない第三者に株式が渡るのを防ぐため、株式の譲渡に会社の承認が必要な「譲渡制限株式」を採用しています。
相続によって株式を取得すること自体は、この「譲渡」には当たらないため、会社の承認は不要です。
しかし問題は、会社を継がない相続人が、自分の相続した株式を「お金に換えたい」と、第三者に売却しようとした場合です。会社がその譲渡を承認しない場合、会社自身や、会社が指定する者(例えば後継者)がその株式を買い取らなければならない、という事態に発展する可能性があります。こうした事態を避けるためにも、遺言による株式の集中が不可欠なのです。

後継者である長男には経営権を、会社を継がない次男には、生活のために配当だけでも渡せるようにしたいのですが…。

「種類株式」を活用することで、そのような柔軟な設計が可能です。
素晴らしいお考えですね。それを実現できるのが「種類株式」という仕組みです。
例えば、
後継者(長男)には:議決権のある「普通株式」を渡す。
非後継者(次男)には:議決権はないが、普通株式よりも優先的に配当を受け取れる「配当優先無議決権株式」を渡す。
といった設計が可能です。
これにより、後継者は経営権を安定させつつ、他のご家族にも配慮した、円満な事業承継が実現できます。種類株式の発行には、定款変更や登記といった法的な手続きが必要となりますので、私たち専門家にご相談ください。

自社株の相続税評価額が、想像以上に高額になりそうです。何か対策はありますか?

役員退職金の活用や、不動産の購入など、計画的な株価対策が有効です。
非上場株式の評価額は、会社の収益性や純資産によって決まるため、業績が良い会社ほど高額になりがちです。
株価を引き下げる対策としては、
役員退職金の支給:オーナー社長自身に役員退職金を支給することで、会社の利益を圧縮し、純資産を減らす。
不動産の購入:会社で不動産を購入する。現金よりも不動産の方が、相続税評価額を低く抑えられる傾向があります。
など、様々な方法が考えられます。
ただし、これらは会社の財務状況にも大きな影響を与えますので、税理士とも連携の上、計画的に実行する必要があります。
出典: No.4638 取引相場のない株式の評価(国税庁)

元気なうちに、後継者に少しずつ株式を生前贈与した方が良いのでしょうか?

計画的に行えば有効ですが、税制改正や経営権の観点から慎重な判断が必要です。
後継者への生前贈与は、相続財産を前渡しすることで相続税の負担を軽減できる可能性がある、有効な手段です。特に、後述する「事業承継税制」を利用する場合は、計画的な生前贈与が前提となります。
しかし、注意点もあります。
税制の問題:亡くなる前7年以内の贈与は、相続財産に加算されてしまいます。
経営権の問題:生前に株式を渡しすぎると、ご自身の経営権が弱まってしまうリスクがあります。
贈与するタイミングや株式数については、全体の承継計画の中で、慎重に検討する必要があります。

会社の相続税は、納税が猶予される制度があると聞きました。どんな制度ですか?

「事業承継税制」のことですね。極めて強力ですが、要件が非常に複雑な制度です。
「法人版事業承継税制」は、一定の要件を満たすことで、後継者が相続・贈与によって取得した自社株にかかる相続税・贈与税の納税が100%猶予され、最終的には免除される可能性がある、という非常に強力な制度です。
ただし、この特例を受けるためには、「特例承継計画」の提出や、承継後の事業継続、雇用維持など、非常に厳格で複雑な要件を長期間にわたってクリアし続ける必要があります。制度の利用を検討される場合は、事業承継に精通した弁護士・税理士チームによる、徹底したサポートが不可欠です。
出典: 法人版事業承継税制(特例措置)のあらまし(国税庁)

高額な相続税の納税資金が、現金で用意できそうにありません。どうすれば良いですか?

「生命保険」の活用が、最も有効な納税資金対策の一つです。
これは非常に切実な問題です。その最も効果的な解決策が、社長自身を被保険者、後継者やご家族を保険金受取人とする「生命保険」に加入しておくことです。
死亡保険金は、
受取人固有の財産なので、遺産分割協議を経ずに、後継者がすぐに現金を受け取れる。
「500万円 × 法定相続人の数」という非課税枠がある。
という大きなメリットがあり、納税資金の確保に最適です。また、会社が株式を買い取る「金庫株」の制度を活用し、他の相続人に株式の売却代金を渡すことで、納税資金を捻出してもらうという方法もあります。

会社が私個人から借りているお金(役員借入金)は、相続の際にどうなりますか?

その「会社への貸付金」も、あなたの相続財産になります。放置すると厄介な問題に。
役員借入金は、会社にとっては負債ですが、あなた個人にとっては「会社に対する債権(貸付金)」というプラスの財産です。したがって、これも相続税の課税対象となります。
これが相続されると、後継者以外の相続人も会社に対して「お金を返して」と請求できる権利を持つことになり、トラブルの元です。生前のうちに、役員報酬との相殺や、DES(デット・エクイティ・スワップ)という手法で債務を資本に振り替えるなど、計画的に解消しておくことが望ましいでしょう。

残念ながら、子どもたちは誰も会社を継ぐ気がありません。会社を畳むしかないのでしょうか?

諦めるのはまだ早いです。「M&A」による第三者への売却・承継という選択肢があります。
後継者不在は、多くの中小企業が抱える深刻な問題です。しかし、廃業を選ぶ前に、ぜひ「M&A(企業の合併・買収)」を検討してください。
あなたの会社が持つ技術やノウハウ、顧客基盤を、他の企業が必要としているかもしれません。M&Aによって会社を売却できれば、あなたは創業者利益を確保でき、従業員の雇用も守られ、取引先との関係も維持できるという、「三方良し」の結果に繋がる可能性があります。
私たちは、信頼できるM&Aアドバイザーと連携し、あなたの会社の価値を正当に評価し、最適なパートナーを探すお手伝いも行っています。

実は、前妻との間に子(婚外子)がいます。事業承継でトラブルにならないか、心配でなりません。

遺言書による株式の集中と、「遺留分」への配慮が絶対に必要です。
これは、事業承継において最も慎重な配慮が必要な問題です。前妻のお子様や、認知した婚外子にも、後継者であるお子様と全く同じ相続権があります。
対策の柱は2つです。
遺言書:Q2の通り、後継者に全株式を相続させる旨の遺言書を作成し、経営権を確実に守ります。
遺留分対策:ただし、そのお子様たちにも最低限の相続分である「遺留分」を請求する権利があります。その遺留分を侵害すると、後継者が多額の金銭支払いを求められ、会社の経営を圧迫しかねません。生命保険金や個人の預貯金などを、遺留分相当額としてそのお子様たちに渡せるよう、手当てしておく必要があります。

結局、事業承継には、弁護士、税理士、司法書士…誰に相談すれば良いのですか?

まずは、事業承継全体を俯瞰できる「弁護士」にご相談ください。
そのお悩み、よく分かります。事業承継は、法務(会社法・民法)、税務、登記、時にはM&Aといった、様々な専門分野が絡み合う複合的なプロジェクトです。
各専門家はそれぞれの分野のプロですが、その全てを見渡し、法的なリスクを管理し、あなたと会社にとっての最適な戦略を立案・実行していく「司令塔」、あるいは「かかりつけ医」のような存在が必要です。
相続・事業承継に強い弁護士は、まさにその「司令塔」として、必要に応じて最適な税理士や司法書士、M&A専門家とチームを組み、プロジェクト全体を前に進めていく役割を担います。

5. 弁護士が「司令塔」としてサポートします

経営者の相続は、法律だけでなく、税務や会社の経営状況まで多角的に見なければなりません。

当事務所では、弁護士が中心となり、税理士や公認会計士と連携してワンストップでサポートします。

生前対策

遺言書作成、事業承継計画の立案、M&A支援。

発生後の対応

相続人調査、遺産分割協議、会社株式の評価、清算手続き。

あなたの「この会社を守りたい」という覚悟と、「家族に仲良くしてほしい」という想い。その両方を、法的に確かな「形」にするお手伝いをいたします 37。

6. 公的機関の参考情報(出典)

正しい知識を得るために、以下の公的機関のサイトもご活用ください。

知っておきたい相続の基本(政府広報オンライン)
https://www.gov-online.go.jp/article/202403/entry-5848.html

事業承継ガイドライン(中小企業庁)
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/shoukei_guideline.pdf

事業承継参考ガイド(中小企業庁)
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/shoukei_guide.pdf

中小M&Aハンドブック(経済産業省)
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/pamphlet/ma-handbook.pdf

事業承継税制特集(国税庁)
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/jigyo-shokei/index.htm

中小企業経営承継円滑化法 申請マニュアル(経済産業省)
https://www.cao.go.jp/bunken-suishin/teianbosyu/doc/r04/tb_r4fu_14meti_230_a.pdf

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